Maririn

オールドのMaririnのネタバレレビュー・内容・結末

オールド(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます



◎感想メモ
ビーチで、年老いた2人の夫婦の姿は、たった1日で、何十年も連れ添ったそれになった。その後ろ姿に、この人と歳をとりたいと思える人と人生を送ることが大切だと気付かされた。
時が早く流れ、人が死に、パニックになるような場所にいても、美しい景色を楽しみましょうという母を見て、なぜ自分がこんな状況にいるかを考え落ち込んだり、パニックになるよりも、今目の前にある景色を美しいと思える心を持つことが大事だなと思った。

◎気付きメモ
1.時間
最初は長く感じられたホテルまでの「あと5分」が、伏線になっている。ビーチへと入ってから、あの5分が相対的に一瞬で過ぎ去ってゆく。
この時、母が言った「この時間を楽しむの!」は人生の真意である。映画を通して伝わってくるメッセージである。
時間のメタファーとして、波がある。
看護師の男性が、脱出口を探して海の波に逆らう姿は、時の波に抗っているようにも見えた。
そう考えると垂直にそびえる岩肌は、空間のメタファーであるように思う。岩肌と波によって、異なる時間軸にある閉鎖された空間が演出されている。

2.成長と老い
目を離したすきに子供が急成長するのは、非現実なようで、とてもリアルだった。
私は結婚もしていないし、子供もいないけれど、きっと子供って少し見ない間に、大きくなっているものだと思う。
久しぶりに会ったおばあちゃんが言う「また大きくなって」とか、単身赴任から帰ってきた父親が子供の変化に驚く様を思い出した。
子供達にとっての時間の流れはold(老い)を意味するのではなく、just growing(成長)であるという対比も面白い。

3.時の流れのメリット
「痛みは必ず過ぎ去る」
時間が早く過ぎることで、体だけでなく、心の傷も消え去るのが早かった。
ビーチが、自然からの贈り物と捉えられ、製薬会社の治験場として使われているというのもおもしろかった。実際にありそうである。
映像や設定にサイコスリラーやホラー要素はたくさんあるが、この設定が1番ホラーであると言うのは言うまでもない。

4.人生は不公平
「私たちはプロムに行けないまま、思い出も何もないまま大人になった」("It's not fair.")
人生の不公平さに嘆くシーンでは、私たちだけ早い時の流れにいるという時間に対する不公平さだけではなく、治験場に閉じ込められることで、普通の人々が通るはずの人生を歩めなかった運命に対する不公平さも嘆いている。
登場人物たちが閉じ込められた特殊な状況には胸が痛むが、現実問題として人生というのは、長さにおいても、質においても、不公平である。
この人生の不公平さだけは公平であるということをつきつけられるのもまた、逆説的で趣深い。

5.人生は奇妙であり、面白い。
1番おもしろいと思ったのは、お父さんの現実に対する見解の変化である。
ホテルに来た時のお父さんのセリフが「奇妙だ」(weird)から、死ぬ直前には「面白い」(funny)に変化している。
weirdは他の人も口にしていたが、funnyと言って死んでいったのはお父さんだけである。
サバイバルホラーのような現状が、死ぬ直前にはぼんやりと昔話のようにどこか現実離れして面白く感じられる様が人生を表している気がしてとても好きだ。人生山あり谷あり。奇妙なことも、危機的状況も、いろいろあるけれど、ああ、おもしろかった、そう思って死ねるのなら、本望である。

◎そのほか気になったことメモ
・お母さんがビーチで読んでいた本はなんだったのか?
・なぜサンゴが脱出口だったのか
・ラッパーの男と連れの女はどうやって夜中にビーチに来たのか
・医者が気にしていた映画の名前は?
Maririn

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