ヨーク

マッドマックス:フュリオサのヨークのレビュー・感想・評価

3.8
映画ファンにとっては待ちに待ったであろうという『マッドマックス:フュリオサ』ですが、第一声としては面白かったです。どれくらい面白かったかというと本作と同じくジョージ・ミラー監督のシリーズ前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(ちなみにめちゃくちゃどうでもいいと思うけど個人的には原題の『フューリーロード』というタイトルの方が好きだからそっちを採用したいのだが分かりやすくするために邦題で表記する)と同じくらいには面白かった。比べると本作がやや落ちるかなという気はするがそこまで遜色はない出来であっただろうと思う。ただ、これは言っておかないと色々な齟齬が出ると思うので最初に書いておくが、そもそも俺は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』自体をおそらく多数の映画好きほどには高評価していないと思う。だから『デスロード』と『フュリオサ』が同じくらいと言ったらめちゃくちゃ高評価じゃん! と思われそうな気もするがスコア的には御覧のように3.9である。面白かったけどぶっちぎりで凄かったというほどでもないって感じ。ちなみに『デスロード』の方にスコアを付けるとしたら……4.0か4.1かなぁ…。そこはそのときの気分で変わりそうだが、まぁそこまでの大差はないということですね。
お話がどんな感じだったかというと、ぶっちゃけ『デスロード』未見で本作を観る人はかなり少なそうなのでわざわざ書くまでもないようなことだろうと思うが、前作『デスロード』でのサブ主人公というか実質ストーリー上の主人公であったと言ってもいいフュリオサの前日譚ですね。荒廃した世界の中でも緑豊かな地で生きていた幼きフュリオサが様々な受難に遭って、その復讐を成し遂げながらイモータン・ジョーの元で名を上げていくというストーリーですね。
ま、その辺は前作を観てる人なら何となく察するところはあるし大体想像通りのお話ではあったので特にそれ以上言うことはないであろう。特筆するところといえば本作は何と言えばいいのだろうか、上で『デスロード』と同じくらいの面白さだったと書いたばかりだが全体の印象としてざっとした面白さは同じくらいでも語り口自体はかなり変わっていて、本作は章仕立てで細かいシーンを刻んでいくような構成になっているんですよ。行きて帰りし物語を体現したような、どっか行って帰ってきただけっていう一つの流れを大胆に投げつけてきた『デスロード』とは違って、なんつうか映画よりもテレビドラマ的な観せ方の物語だよなって思いましたね。
そもそもが「マッドマックス」というシリーズの外伝的な物語なのでそういう大きな物語の脇にあるものという番外編的なノリが根底にある作品だとは思うのだが、それがマッドマックスワールドの大きな広がりを感じさせるよりも何かこじんまりとした印象を受けてしまって個人的にはイマイチだなぁと思ってしまった。なんだろうな、それが本作のメインテーマなんだから当たり前だろと言われれば返す言葉は無いのだが、フュリオサの周囲数メートルくらいの出来事しか描かれていなくてマッドマックスという非常に魅力的な作り物の世界の面白さはあんまり感じなかったんですよね。行間とか余白をあんまり感じなかったと言い換えてもいいかもしれない。そこはなんというか難しいなぁ、と思うところで『デスロード』と比べたらガスタウンやバレットファームという新たなロケーションが舞台になっていて、そういうゲーム的に言うなら新マップでポストアポカリプスな戦国時代というのはより描かれているはずなのだが、不思議とあんまりグッと来なかったんですよね。
これはおそらく連続ドラマ的な世界の広げ方をしたのに肝心のメインストーリーはフュリオサの視点でしか進まないっていうところに原因があるんじゃないかと思った。これが全10話くらいのドラマならフュリオサから視点を外して一方その頃…的な感じでガスタウンを舞台にしたディメンタス回やバレットファームが舞台になる回がそれぞれ1話ずつくらいあって、それぞれの場所の描写がより作品世界の深度を増すっていう感じにできたと思うんだけど本作は148分という長尺でありながらも基本的にフュリオサの周囲のことしか描かれないからなんか世界の大きさを感じられないんですよ。そこはちょっと残念だったなと思う。ま、ジョージ・ミラーが亡くなった後とかでイモータン・ジョーとかディメンタスが主役のスピンオフを作ろうとしてて本作はその布石なんかもしれないですけどね。
それは言い方を変えるとフュリオサというキャラクターだけにフォーカスした映画だという点が強いせいで、要はマッドマックスという世界そのものを描くとか、その世界で行われるバカみてーなアクションを描くというよりもキャラクターのドラマをエモく見せるみたいな要素が強かったということなんですよね。ある種のアイドル映画なんですよ。そのせいでアクションシーン自体が少なくなってたりもして、そこがなんかガッカリ感強かったな。とは言ってもつまんないわけじゃなくて余裕で面白い映画ではあるんだけどさ。
他には『デスロード』を観ている人にとっては大体先が読めてしまう問題もあったかな。フュリオサは丸刈りで隻腕のキャラクターだけど本作では子供時代のフュリオサから描かれるので途中までは両手が健在でロングヘアだったりするわけだが、こっちとしてはそのビジュアルが変わっていくことも知ってるわけだから(あぁここで髪切るんだろうな…とかこのシーンで隻腕になるな…)とかが先読みできてしまうんですよ。そこは単純につまんなかったな。先に完全体フュリオサをお出ししてからの回想形式とかの方が良かったんじゃないかなと思いましたね。大体がイモータン・ジョーの部下とかコイツらどうせ本作では死なないんだよな…って分かってるから盛り上がらないんだよ! せっかく盛り上がりそうになった戦争シーンはカットされるしさ!
なんか文句ばかり書いてる気もするが、最初に書いたようにトータルとしては余裕で面白かったですよ。ウォータンクの攻防とかは激熱だったし、芋砂野郎にRPGぶち込みてぇ〜! というFPSゲーをプレイしてるときの気持ちを思い出させてくれたダーク・ディメンタスさんには感情移入してしまった。バイクのアクションも面白かったですね。
なので余裕で面白い映画ではあったのだが、ぶっちぎりですげぇ! ってほどではなかったです。まぁこれくらいだよね、って感じで面白かったです。
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