まちゃん

ドライブ・マイ・カーのまちゃんのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.3
舞台俳優兼演出家の家福悠介は台本を仕事へ向かう車の中で覚える習慣がある。妻・音の録音したテープに合わせて練習するのだ。音は脚本家をしており、同業者だ。家福は理解あるパートナーと共に幸せな生活をしていた。そんなある日、仕事に出かける家福に音が声を掛ける。「今夜、話がある」と。その夜、帰宅した家福を待っていたのは意識を失った妻の姿だった…。喪失と再生をテーマにした作品は数多い。しかし、この作品ほど繊細に描ききった作品は無いのではないか。物語は妻を喪って2年後の演劇祭が主舞台だ。そこで家福が演出するチェーホフ「ワーニャ叔父さん」の台詞と登場人物達が重なり合う。特に運転中の車で流れる妻の声は否応なく家福を過去の記憶に引き戻す。そしてこの声を家福と共に聞くもう一人の人物がいる。専属ドライバーのみさきだ。無表情で心を閉ざしたように見える女性。過去の記憶の象徴であるテープを聞きながら彼女自身も自らの過去へ向き合っていったように思える。そして家福を慕い妻・音の別の顔を知る若い俳優・高槻。彼から聞かされる物語によって家福は自己の内面の奥底に気付かされる。彼らの未来はどこへ向かうのか。傑作。
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