しおえもんGoGo

エスター ファースト・キルのしおえもんGoGoのレビュー・感想・評価

3.9
前作を見たからこそ面白い。前作が丸ごと壮大な前振りになってるみたい。

まずあの前作の大ネタがバレた状態で、しかも13年経って同じ役者に10歳の子役をやらせるという勇気はすごいし、やっぱり最初はそこに目が行く。

さすがにいくらあどけない表情を見せても子供と呼ぶには無理がある。
ボディダブルやカット割りの工夫、周囲に本物の子供は出さないなどの涙ぐましい努力はしているが、どう見ても10代には見えない。
前作にあったようなジワジワと感じる違和感のような不気味さは無くて、最初から既に不気味なのも仕方ない。

さすがにたった4年前に行方不明になった娘と入れ替わってたら親もすぐ気づくだろうという雑さもあるし、後はどんな殺し方するんだろうなーぐらいで、「13年前と同じキャストであのエスターを演じる」という出オチの映画かと思っていたら、予想を大きく裏切られた。


以下ネタバレあります。


前半が進むにつれて「はいはい、前作と同じく父親が何も分かってないポンコツで、エスターの異常さに気付いた母親が実の子を守るために戦う話ね」と思っていたけど、「実の子を守るために戦う」の意味が全然違った。
出てきた瞬間から死亡フラグを背負ってる刑事が死ぬ辺りは「はいはい」だったけど、その後の展開には「そうきたか!」とビックリしたし、その後のサイコな女二人の会話がゾクゾクする。
またなぜ誰もこの子が本当にエスターなのか疑問に思わないのかとか、でもちょっと不審に思ってるからぎこちないのかなと思っていた本当の意味に得心する。

前日譚という事もあってエスター側は病院外で世間に揉まれてないせいか、上流階級の嫌らしい人間関係を生き抜いてきた母親に押されっぱなし。

この母親の有能さをどこかで見たことあると思ったらボーンシリーズにニッキーじゃないか。
「エスターに入り込まれて戸惑う母親」と思ってたら開き直ってからのこの腹の座り方。家族を守るためならやったるで感。めっちゃ好き。
そしてこの会話シーンで、エスターの役者が20代というのがなんか妙にしっくりきて、からくりがバレてエスター側も「で、どうすんのさ」といわんばかりのふてぶてしい顔で会話してるのが、二人の悪女の対決という感じでとても良かった。

息子も最悪のクズだし、母親はサイコだし、父親は相変わらずポンコツだし「エスター、サクっとやっちゃって」という気持ちに。
でも母親がエスターの上を行くところも見たい。

ハブとマングースの戦いを見てるような、どっちの悪も応援してしまう感覚になった。

でもこれだけだったら別にホラーとしても怖いわけじゃないし、被害者と思った方もサイコだったという話もある。

私がこれをエスターの続編として好きだと思ったのは、前作でエスターの正体がわかった時の切なさを私が覚えているからだ。

確かにエスターはサイコパスだが、前作で実は成人女性だと判明した時に明らかになった「女として心身共に男に愛されたい」「大人の女として扱われたい」というエスターの願いや欲はとても切ない。

彼女は生まれついてのサイコパスなのかもしれないが、その体質によるコンプレックスや偏見から性格が歪んでしまった事は容易に想像がつく。

今回母親が「私は私の夫とファックしてくるから」とか「このちびの化け物」のように罵声が、エスターの心にクリティカルヒットしているであろうことが分かって切なくなる。
と同時に、その弱点を見抜いて憎々しい言い方でそこを的確に刺す母親の悪役としての優秀さが気持ちいい。
スムージーの下りの「やりやがったな」みたいな表情とか。
これ少年バトル漫画か?

前作を踏襲しつつ、そこをずらしてくる脚本、母親という好敵手、エスターというキャラが周知されてる事を利用したストーリーで、続編として優秀だと思った。

もしかしてエスターはあの父親みたいな男がタイプなのではないだろうか。前作の父親とちょっと似てるし。
もしそうだったらそれもちょっと切ない。
でも多分あなたはそんな優しいだけの男は退屈で満足できないと思うよ…

前作でエスターが使ってた蛍光塗料を使ったアートのルーツがこんなところにあるとは…。

でもさすがにもう続編はいらないかな。
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