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ドント・テル~秘密を話したら最後/誰にも言うなのドントのレビュー・感想・評価

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 2020年。U-NEXTでの題名は『ドント・テル 秘密を話したら最後』。地味ながら面白いと思った。修理中の家から金を盗んだ兄弟が、帰り道で警備員とおぼしき男に発見され逃走、だが森の中で警備員は古井戸の穴に落ちてしまう。ワルの兄貴は「ほっとけばいずれ死ぬ」と言うものの、 ワルではない弟くんは捨て置けず、男に差し入れなどをし、そして……
 まず導入がよい。少年が部屋にいるとドアを開けて青年がウオォーッほら行くぞ! と怒鳴りこんでくる。この時点では兄弟ということすら示されない。わけがわからないまま本文最初の泥棒展開に入り、警備員のオッサンが穴に落ちるまでを一気呵成にやる。まどろっこしくない。いきなり掴みにきてコトを起こし て組み伏せてくる。
 その後でこの兄弟の家庭の事情とかオッサンと弟くんの奇妙な関係とかそういうものがお出しされて多少まどろっこしいことになるが、こっちはもう掴まれているので観るほかない。
 登場人物は主に4人、あとは計15人ほどのモブ。しんどい過去があるが回想はない。ミニマムな世界観と語り口が、米国のプアホワイトの家庭のパサついた薄暗さにぴったりである。 天気がいつも曇り空で映像が灰色がまとわりついていたり、どでかい煙突が圧するように建っている風景もよい。子どもとしては相当に追い詰められた状況と環境であることを押しつけがましくなく描いてある。
 弟くんを演じるのは『シャザム!』で足の悪い少年を演じていた彼で、子どもながらに疲労感のにじむ頬と大きくて綺麗な瞳のギャップが目を引く。 純粋でありつつ、何かのきっかけで大変なことをしでかしそうな、そんな危うい佇まいと演技を見せる。それを受けるオッサンも、曖昧さを多分に残しつつ「根っからの悪人ではないのだろうなぁ」と思わせる生活感を漂わせていて実にいい。型通りの演技はしていない。
 このふたりの絶妙のキャラクター性と微妙な関係性が、多少の力技も押し通す 「幅」を持っている。80分の短かさもあいまって、どう転ぶのかわからないス リルが全編にある。それゆえ、落ち着くところに落ち着いてしまうラストに は少々肩透かしを喰らった。超ハッピーにしろとか悲惨にしろとは言わないが、いささか安易な着地ではなかろうか。とは言えあの先は明るい とは言えないわけですが……。もう一味ほしかったかなぁ。
 夜中に放送してたり、 なんかのついでに観ると得をした気分になれる作品だと思う。貧乏がな、みんな貧乏が悪いんや。なお邦題は『It』と『ドント・ブリーズ』への乗っかりに見せかけて、実は原題が『Don't tell a soul』(誰にも言わないで)と意外にそのままだったりする。
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