ドント

オオカミの家のドントのレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
4.2
 2018年。ワッ、ワァー タスケテー カルト教団とおぼしき組織から逃げ出してきて小屋へと隠れた少女マリアは、小屋にいた野ブタ2頭と共に平和に暮らそうとする。寂しさゆえか教団で身に付けた魔法でブタを子供と少女に変え生活を続けるが、どこからともなく「マーリーアー」というオッサンの声が……そして揺らぎはじめる平和な生活……
 まず本作、「カルト教団が『大丈夫です! ウチは健全ですよ! ねっ!』と喧伝するための映像」という建て付けからはじまる。言うたらファウンドフッテージ(発見された映像)ホラーなわけで、内容に反して親切な導入だと思う。この設定にしといて中身はストップモーションアニメってのは大胆だな。
 チリの歴史とかカルト教団(コロニア・ディグニダ)を下敷きにしてるし、かなり凄い映像だけれども、根っこの部分ではホラーとして作られているのだと思う。あらすじだけ抜き出すと「カルト教団から逃げ出した少女が平和に暮らそうとするけれど、力によって生み出した生物を閉じ込めるようになり、ついには」というお話であるし。存外にシンプルなのだ。
 シンプルわ、なのだ、けれども。この映像。この映像は何だ。説明するのが不可能と思えるこの映像。家の中の家具は二次元であったり三次元であったりしつつべっとり、ズルリズルリと動く。壁や椅子はほどけて崩れて溶けて去り行き時間も空間も粘り気を残して泥の川の如く進む。人間と豚たちは平面になったり人形になったりして二次三次の境界が存在しない。
 人は大きさも不定だし肉体はあいまい。頭が異様にデカかったり、椅子に座る体があとからヌルヌルと形成されて色づいたりしする。そして体も物体も平気な顔で崩れて溶解して次のシーンへと移る。これらがわざと雑にやられたストップモーションでズルリズルリのヌルヌルで形作られていく。物凄い。とろけるような毒の悪夢。
 とにかく異様な、異常な手作り映像が延々と展開して脳がキュウーンと縮まる。シュヴァンクマイエルとかクエイ兄弟よりも自由で、『マッドゴッド』がわかりやすくポップに見えてくる。いやぁこんな映画があるのだから世界は広い。大変ですよ。猛烈に刺激を受けたので今夜は悪夢100%ですね!
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