砂場

暁の追跡の砂場のレビュー・感想・評価

暁の追跡(1950年製作の映画)
4.1
敗戦国日本の夜の暗さが印象的、夜は暗くてそこで行われていることは観客にはよく見えない、でもそれが敗戦国の夜なのだ
まずはあらすじから


ーーーあらすじーーー
■何やら怪しげな仕事を依頼する男と、金のためにイヤイヤながら引き受ける男
■石川巡査(池部良)は交番勤務、同僚の子供が具合が悪いと聞き当番を代わってあげる石川巡査。山口巡査は勤務に私情を挟むなと批判する
新橋の交番は夜になると酔っ払いがきたり忙しい
■闇取引をしていた男が連行されてきた、取り調べ中に逃走、石川巡査が追いかけるが、線路に飛び出し男は列車に轢かれた
男の死に苦悩する石川、
■線香を上げに遺族の家に行くと男の妻(北林 谷榮)はどうぞというが
男の妹は石川にあなたが殺した、警察は巨悪は放置し、兄のような
小物を捕まえると感情的に非難、死んだ男はシベリア帰りだったが、職もなくやむを得ず悪事に手を染めていた
■石川の彼女の友子(杉葉子)は落ち込む石川を海水浴に誘う
■交番で新人の拳銃を貸してみろと言った檜巡査(伊藤雄之助)
だがいじっているうちに銃が暴発、新人の腕に当たった。この事件で檜巡査はクビに、上層部に対し、檜巡査のクビは不当であると文句を言う
■僕も辞めるつもりだ、しかし職探しの途中で争う男を目撃し、現場に踏み込むと床には血が、、
■警察では毒薬D38の密売ルートを探っていた
■一報が入る、男の妹が死んだ、ガード下で殺されていた、
■キャバレーでの喧嘩が起きた、捕まえてみると金次郎という男、何かを知っている。男の自白で、八郎という男が捜査戦場に浮かぶ
捜査本部に入りたいです、しかし君はあくまでも交番の巡邏じゃないか
■柔道の稽古、石川は弱い人間を助けるのが警察だと自論
警察が入らない世界が理想だといい、意見を異にする同僚の胸ぐら掴む
■石川は友子にプロポーズ、二人はキスをする
■檜は今はバンドマンになっていた、石川、まだ警察やってんのか?


<💢以下ネタバレあり💢>
■闇取引の現場に警察の大部隊が急襲、マシンガンで二人の警官が撃たれる
激しい銃撃戦、何人かが逮捕される、親玉が仲間の包帯を巻いた男を振り切って金を全て持ち逃げしようとしている。
包帯の男は食い下がるがチェーンで親玉に首を絞められる
警察が来たので親玉は全力で逃げ出すが、廃墟の上に登ったところでその廃墟が崩落、男は死んだ。
■石川は瀕死の包帯の男を見つける、この男は追っていた八郎だった。
売人兄と妹を死に追いやった奴だ。
包帯男は死んだ。石川は男の瞼をそっと閉じる
ーーーあらすじ終わりーーー




🎥🎥🎥
戦後間もない時期の本作、東京もまだバラックのような家も多くて生活に必死の人々。街頭やネオンも少なくて夜もかなり暗いね
夜はビルが真っ黒いシルエットでノワールな雰囲気が濃厚。現代だと夜も明るいからなあ
この頃の都会の夜は、ほとんど真っ暗で電気はちょっとだけなので犯罪者は逃げ隠れる場所が多い。真っ暗な場所で人が動いたり揉みあったりしてて何が行われているのかよくわからない。フィルムが劣化しているのもあるけど、、、

「アメリカの夜:フランス語: nuit américaine、英語: day for night)」というモノクロ時代の映画技法は、フィルム撮影だと夜の撮影では感度的に光量が少なすぎるので、昼間に露出を小さく撮影して夜のように見せること。
トリュフォーの映画のタイトルでも有名で、まあ映画の夜っていうのは実際は昼なんだけど夜に見えるイリュージョンってことだ。

この『暁の追跡』とかこの頃の日本映画は「アメリカの夜」なのか「本当の夜」なのかわからないけども、真っ暗で何が起きているのかよくわからないのはそれでもOKであり、映画的にわかりやすく見せなければいけないとは思っていないようである。
夜ってそんなもんでしょ、、特に敗戦国の夜なんてのは誰が暗闇で何してるのかわからないんだからそのまんま映せばいいんだよという割り切りのリアリズムを感じる。
夜で言えば『クーリンチェ少年殺人事件』の闇夜も何が起きているかわからなくてそれは素晴らしかった。

夜のように見せてかつそこで何が起きているのかわからせたいというのはハリウッド的な合理主義でありその発想は映画的に素晴らしいと思うし、映画って本質的にそのようなイリュージョンだよねとは思うが、敗戦国日本とか混迷の台湾などでは何が起きているのかわからない夜というのが社会の実相を表していると思う。

池部良が若い、というか池部良はいつも若くて雰囲気は変わらない。
Wikiで経歴を見ると、徴兵で戦地に行ってるのか、、、、大変な修羅場を生き抜いてきたのだった。部下思いの将校だったらしく池部キャラそのままだ

本作には戦争の影がそこかしこに。
最初の方で死んでしまう闇取引の男もシベリア帰りで仕事もなく、
池部良と杉葉子が海水浴でキャッキャ遊んでいると頭上に民間機が、二人は爆撃を思い出すのだった。
ラストの容疑者アジトの強制捜査も軍隊っぽい。

警察の協力を得て新藤兼人脚本、割とドキュメンタリー寄りの作りであり市川崑ぽいところはあまり見られないけども、伊藤雄之助が出てきたり最後の包帯男とかそれっぽさも見られる。
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