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夜明けのすべての砂場のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
す、、素晴らしい、、、前作『ケイコ、、』も超絶傑作でしたがあちらはクール系、本作「夜明けのすべて」はウエットな感動系でした。

藤沢さん(上白石萌音)は仕事が続かない。PMS(月経前症候群)で月一回イライラを爆発させてしまう。転職した会社で山添くん(松村北斗)というやる気のない社員に出会う、彼はパニック障害を持っていた、、、、

栗田(光石研)の会社はメンタルに病気を持つ人の雇用を積極的に行っているのかな、藤沢さんの爆発も、山添くんのパニックも同僚が落ち着いて優しく受け止める。社長の栗田の方針なのだろう。藤沢さんの転職についても、次決まったの?と栗田が言っていたので受け皿として社会貢献する企業ミッションなのかもしれない。いや〜実際なかなかできることではないよな、栗田の場合は20年前に弟を亡くしている、その体験から他人を受容する生き方を選んだのかその意味では、登場人物はみんなどこか病んでいたり辛い体験を背負っていたり。

藤沢さんの一緒に頑張ろうという言葉に対し山添くんは疑問を口にする。一緒に?それってなんですか?あなたと自分は症状も違うし、、、、山添くんは疾患のある人同士が安易に同質化することに違和感を覚えた、彼にしてみればまず個人個人状況も違うのでまず相互理解してないし、、というわけである。そこで藤沢さん、髪の毛を切ってあげるという暴挙に出て山添くんを爆笑させる。ここでストーリーは一気にシフトチェンジ。

コーダの話になっちゃうけど、個人的にはあの作品はあまり好きではない。聴覚障害の夫婦から、耳の聞こえる娘が生まれた。母は娘が”聞こえる子”だったことにがっかりする。この差別意識(逆差別意識?)には衝撃を受けてしまった。音大に行くことを許可する程度で解消できるとは思えない。しかしあの映画ではその問題に触れることなくハッピーエンド風で終わる。そこが解せない

「夜明けのすべて」では、山添くんのセリフによって安易な同質化を逃れている。そして藤沢さんもちゃんと受け止め、まず人間として向き合うことにするそこからは二人は本当に変わった、その変化を説得力ある形で演じた松村北斗と上白石萌音は素晴らしい。

僕個人で言えば自分はたまたまメンタルな不調は持っていない、けどとある悩みを抱えている。メンタル一歩手前かもしれない。でもこの映画を見て生きるってなかなかいいじゃないかと心から思える。宮崎御大に「君たちはどう生きるか」と言われればなんとなく背筋を伸ばして、生きるってなんだろうと考える。考えざるを得ない、まあでもその疑問文って結構きついよ、御大に詰める意図はないと思うのだが「もののけ姫」でも糸井重里のコピーも”生きろ”だった、命令文だよね。凡人は宮崎御大ほどのエネルギーを持って生きることを主体的に決断できるような人ばかりじゃない、もちろん宮崎さんは尊敬してますよ、でも凡人は疑問文で詰められたり、命令文で言われたりしても立ち竦んじゃうんですよ。

生きることについて、三宅唱の映画は疑問文でも命令文でもない、プラネタリウムの中で夜明けを思い出すことで、ああ、今は夜でも明けることもあるんだなと生きることについて小さな希望を持てる
16ミリのフィルムはその小さな希望にぴったりだった
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