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TOVE/トーベのOtoのレビュー・感想・評価

TOVE/トーベ(2020年製作の映画)
3.2
ムーミンの作者であるトーベヤンソンの人生を描いた物語。試写にて。

繊細で美しい映画。お伽話のような作品を予想していたら、むしろ非常に写実的で憂いのある作品。戦後の世界を描いているのもあるけれど、トーンとしては『ミツバチのささやき』とか『ピアノレッスン』に近い印象。手持ちカメラ、自然光、性愛描写...「ドグマ95」のような演出。

舞台演出家との叶わぬ同性愛、保守的な美術家である父親との軋轢など、厳しい世の中において自分を慰めるように生み出したムーミンが、すごく彼女自身を投影した存在であることに気付かされて、ビフとトフがあそこまで重要なキャラクターだとは知らなかったし、妻のもとに帰る夫をスナフキンに重ねていたのとかも知らなかった。

一番驚きだったのは、「芸術家として失敗したので。」と言っているように、ムーミンを描くことが彼女の本望ではなかったということで、それは救いでもあるなぁと思った。小さい頃からずっと夢見ていたことを仕事にする人もいるけれど、活躍している人たちですらどこかで遠回りをしたり想像とは少し違う職について世の中との接点を見つけ出したりしていることが多いので、トーベもそうだったんだなぁと思った。そしてそれは不特定多数ではなく、身近にいる最愛の人や家族に向けて作られたものであることも素晴らしい。

とはいえ、創作よりも私生活の比重が大きいので、ムーミンファンの子供たちがみるにはかなりドキュメンタリーチックでダーク。自分も仕事終わりに見るには眠たくなってしまったくらいの機微を描いた映画なので、一般ウケという意味ではどうなのかわからないけど、コロナ禍という苦しい時代にこの映画をみて元気をもらえる人はたくさんいると思う。
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