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ハウス・オブ・グッチのumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

ハウス・オブ・グッチ(2021年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

リドリー・スコット監督作品。あのグッチ一族のスキャンダルを描いた作品。



最初に言っておくと、とてもおもしろくて約150分があっという間だった。昼ドラばりの過剰な演出が極めて俗っぽいのだが、ストーリーの濃厚さとベテラン俳優たちの濃厚さと演出の濃厚さがガッチリとマッチしていて、刺激過多のメロドラマとして心から楽しめた。しかしながら、どうしても理解しがたい点もいくつかあったため、今回は良かった点と悪かった点に分けて書いてみたい。



貧しい生まれのパトリツィアは、パーティでグッチ一族の3代目となるマウリツォに出会う。偶然を装ってマウリツォに近づいたパトリツィアは首尾よく彼と恋に落ち、ふたりは結婚を願うようになる。しかし、マウリツォの父ルドルフォは猛反対。勘当同然で家を出たマウリツォはパトリツィアの父親の会社で働き、ふたりは結婚して娘を設ける。一方、パトリツィアはNYでグッチブランドの事業拡大に勤しむマウリツォの伯父アルドに取り入り、マウリツォをグッチのビジネスに復帰させようと目論む。無能な息子パオロを持つアルドは法律の勉強をして頭が良いマウリツォに目をかけ、マウリツォ一家をNYへと呼び寄せるが……。



<良い点>



①純粋にストーリーが面白い。



実際の事件が現実離れしているのと、グッチファミリーのゴージャスな暮らしぶりや彼らの愚かさが強調され、グイグイ惹きつけられる。これからどうなるのか大体はわかっているのに、二転三転するお家騒動から目が離せない。まさに昼ドラ。低俗なジェットコースタームービー。



②役者たちの達者な演技。



童貞臭プンプンで登場するマウリツォ役のアダム・ドライバー、グッチルックが決まりすぎていて人間離れしているルドルフォ役のジェレミー・アイアンズ(オシャレすぎて登場しただけで笑いが起きたシーンあり)、俗物だがユニークな人物であるアルド役のアル・パチーノ、ドメニコ・デ・ソーレ役のジャック・ヒューストンの演技は素晴らしい。



特にアル・パチーノの芝居は哀楽を兼ね備えた非常にインプレッシブなもので、さすがとしか言いようがなかった。(あと、ちょっと複雑な扱われ方だけど日本語喋ってます)



あと、どうでもいいが今年観た作品のアダム・ドライバーの濡れ場がいずれもWEIRDすぎて、アダム・ドライバー=変な濡れ場の人みたいなイメージが自分の中でできつつあるのが怖い。



③ロケーション、衣裳、美術など。



着ているもの、暮らしている場所、部屋に置いてあるものなど、隅々まで気を配られていて目がいくつあっても足りない。また、アダム・ドライバーがバイクや自転車で移動していたり、アル・パチーノがエプロンをつけて皿を洗っていたりとアクセントになる演出も多く、まったく飽きさせない。



④笑える。



過剰な昼ドラスタイルで描かれているので、出てくる人物は基本滑稽。よって、笑いの要素がけっこうある。これまたアル・パチーノのシーンが絶品。



<悪い点>



①イタリア語訛りの英語。



これが最大の不満点。本作はイタリア人によるイタリアの話だが、出ているキャストは全員英語圏の人間なので用いられている言葉は英語である。そこまではまあいい(このやり方も変わっていくといいとは思うけれど)。問題は、わざわざ全員がわざとらしいイタリア語訛りで喋っているという点だ。もちろん、イタリア人同士の会話という設定のシーンであっても。



たとえば、『敦煌』や『新解釈・三国志』などの中国を舞台にした日本映画で、キャストが全員中国語訛りの日本語を話していたらどうだろうか?または、日本を舞台にしたハリウッド映画にスティーブン・ユアンやジョン・チョーといったアジア系スターが出ていたとして、わざわざ日本語訛りの英語を話していたとしたら?私はどう考えても不自然だと思うし腹が立つ気がするのだが、どうですか?



アメリカを舞台にした映画においてイタリア人役のキャストがイタリア語訛りの英語を話すとか、韓国映画で日本人役を演じる日本人キャストがいないから韓国語訛りの日本語を話す日本兵が出てくるとか、そういうことではないのだ。すでに「イタリア人同士がイタリア国内で英語で会話している」ことが映画のウソなのに、わざわざ「イタリア語訛りで」話しているのだ。なぜこれが変だと思わないのか理解に苦しむ。



おそらく理由はあって、トム・フォード役など英語圏の人間が出てくるので差別化を図りたいとか、そういうことなのだろう。でも、私は納得できない。イタリアの人たちがこの映画を観てどう感じるのかを聞いてみたい。



②ジャレッド・レト



名指しして申し訳ないが、パオロ役のジャレッド・レトは完全にやり過ぎていた。剥げ散らかした老けメイクで予告編の時点で違和感バリバリだったジャレッド・レトだが、彼を起用した理由がパオロというキャラクターの特殊性にあるのはわかる。愚鈍で才能がなく、それでもどこか憎めないパオロ。誰かに馬鹿にされているか一人で悶々と打ちひしがれてるシーンが多く、常に喜怒哀楽を派手に表明しないといけない特殊な役柄だ。



それが裏目に出た。まず、イタリア語訛りがわざとらしすぎて喋り方がなんだかおかしい。また、メロドラマ風演出の中にあってもさらに異質性を感じるレベルの超過剰演技がキツい。特に、達者とまではいわないが頑張りを見せたレディ・ガガとふたりのシーンや、パオロひとりのシーンが辛かった。逆に、アル・パチーノとのシーンはそこだけ濃密なふたり芝居を観ているほど異様な高まりを見せていて秀逸(ジェレミー・アイアンズとのシーンも良かった)。ジャレッド・レトのようなトリックスターを受け止めるには、それ相応の実力がないとダメなのだなと思い知った。ジョーカー役でもやりすぎ注意報!といった印象だったジャレッド・レト。もしかしたらラジー賞もあり得るなあと個人的には思ったが、さてどうなるか。



③敬意は足りないかも。



元の話がスキャンダルなのである程度は仕方がないが、グッチ一族に対してはかなり失礼かなあという印象。そもそも足元すくわれまくった結果なので愚かしさが前面に出るのは避けられないし、登場人物のほとんどは故人とはいえ……ここまでの昼ドラムービーにされてしまうのはやや気の毒かもしれない。



以上、悪いことも書きなぐったが基本的には「とんでもなく面白かった!」というのが一番の感想なので、ぜひ観ていただきたいのも本音。笑えるしね。本当に150分が30分くらいに感じたよ!
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