さよこ

モーリタニアン 黒塗りの記録のさよこのレビュー・感想・評価

4.8
【年齢制限しなくていいの?R18級の衝撃】

凄い映画だった。
どうかこの物語がフィクションでありますように…と、何度思ったことか。残念ながら実話であると冒頭で知らされるので、様々なことが起こるたびに衝撃が凄くて受け止めきれないことがしばしば。10代のときの自分が観たら絶対トラウマが残ってしまうので今からでもR18+にしてほしい。そのくらい重たい作品。

*****

😢劇中で3回泣いた。
主人公が尋問という名の虐待を受けているとき、自分まで心と身体の両方に苦痛を感じ、とても苦しく、もう止めてと涙が出た。つらかった。

不遇な目に遭った主人公が笑顔を見せたとき、まだ笑顔になるだけの心が残っていた…ほんとに良かったと思い、すごく泣いた。1番の盛り上がり。

なんでもないシーンでも泣いてしまった。まだ序盤〜中盤ほどで、これから起こることに比べたら序の口なのに、巨大な組織や、抗えない権力や色々なものを前に、主人公より先に自分の心がくじけてしまった。前に進もうとする彼らを見て、どうせ揉み消されるだけなのにと虚しさと無力さを感じてしまい、なんでもない日常シーンで泣いてしまった。感情が飛び跳ねるのではなく、ゆっくり、静かに、絶望でいっぱいになったんだと思う。自分でも気づかないうちに、いつの間にか感情が溢れた感じ。映画でこういう泣き方が出来るんだ…って自分でも驚いた。

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主人公の魅力は、人なつこさ👶
数々の虐待で危うく失われそうになったけど、看守と軽口を叩いたり、英語で軍人の口ぶりを真似てみたり、収容所で顔が見えない友達を作ったり、彼の根底は「人間が好き」で溢れていて、この世に悪い人間はいないと本気で思っていそうな純粋さが却ってツラかった。これから起こることは人間の所業とは思えないことばかりだもの。

不当な拘留や冤罪で精神を病む人は少なくない。例えば日本で起きた有名な冤罪事件では、40年以上塀の中で過ごし、ようやく釈放された頃には、耐え難いストレスから完全に精神を失ってしまい現実世界に戻ってこれなかった。置かれた環境に違いはあれど、命がけの状況まで追い込まれた主人公の行く末はとても哀しいものが待ち受けてるのではないかと思い、映画を観続けるのがキツかった。園子温の冷たい熱帯魚がR18+ならこの映画だってR18+、いやそれ以上だ。

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圧倒的存在感のジョディー・フォスター💄
凄い格好良かった。バリキャリのジョディ。ファクト以外の情報に見向きもせず、ひたすら感情を削ぎ落として冷静沈着。それでいて仕事仲間からの頼まれごとは無理難題であってもやり抜くし、自分の仕事もコネクションを駆使して進めていく。コネクションの使い方が、情に訴えるのではなく今までの恩を回収するやり方だったのは彼女らしくて笑ったけど、ストイックでありながらも決して独りよがりではないバランス感覚。仕事デキる感がビシビシ伝わってくる。そして凄く稀に見せる感情の喜怒哀楽はツンデレの極みなのでジョディ可愛いな…てなったw

あとジョディのファッションも好き。自分のために着ている感じが凄く好き。彼女の仕事柄、今までも世間からバッシングを受けたことはあっただろうし、ときには恐喝や脅しなど命を狙われることもあったと思う。彼女のパキっとした主張の強い口紅の色は「私はどんな脅しにも屈しない。この口から声を上げることを絶対にやめないわよ!!」という彼女からの意思表示のように思えた。ちゃんと糾弾してやるから黙ってなさいと不適の笑みを浮かべるジョディが目に浮かぶ(そんなシーンないけど)

**

演出の上手さ⌚
この映画は時系列がバラバラ。複雑な脚本ながらも、現在と過去の棲み分けは映像のサイズや彩度で表現していたので理解しやすかった。あえてバラバラにすることで点と点が繋がる瞬間が度々起こり、ぐいぐい引き込まれていった。120分を超える長尺作品ではあるものの、途中で中だるみすることなく最後まで駆け抜けていったので、飽きさせない工夫というか、人を引き付ける演出がすごく上手だと思った。

*

まとめ📝
普段映画を何本かハシゴすることがあるんですが、この作品は1つでお腹いっぱいになる中身がぎっしり詰まった作品でした。

観たあとも数日間は引きずるというか、凄く心に残る映画です。途中メンタルが凹んでギブしそうになったけど、観て良かった。

最初と最後に出てきた[WEST30]が何を表してるのか分からなかった(誰か教えてw)のと、最初に伝えたとおり、やっぱりこの映画はR設定してほしいので少し☆を減らして4.8にしました。




︙ここから⇩は個人メモです





⚠️この先、若干のネタバレあり⚠️


・9.11に私怨を持った人を○○に任命するあたり、アメリカ的な人選だなと思った。もしかしたら収容所の看守たちもそうやって選ばれたのかもしれない。私情に走るアメリカ軍vs一切の情を切り捨てる女弁護士、○○を除いて両者対照的なのが面白かった。

・身を乗り出したら逃げてくださいと警告するシーンは、まるで猛獣扱いで、ほんとに人間扱いしてないんだなって思ってちょっと引いてしまった。その後、ジョディたちが○○するシーンは思わず拍手。さすが修羅場をくぐり抜けてきただけあるなと思った。相当肝が座ってる〜!ジョディ格好良い〜!

・情に左右されないジョディと、若さゆえに感情で判断してしまう新人弁護士。2人の長所がちょうど真逆で良いコンビだった。ジョディもあれだけのキャリアだったら「情があるフリ」をするだけでも依頼人や新人弁護士と良好な関係が築けると分かりそうなはずなのに、その手段を取らないところに多少の頑固さとポリシーを感じて、ちょっと歯がゆかった。

・主人公が母親に電話かけさせた理由について、新人は○○だと考え、ジョディは○○だと言う。なんとなくジョディは「依頼人は自分を利用する存在」だと心のどこかで思っていそうで、今までのキャリアや紆余曲折が透けて見えた気がした。騙されたり、詐称されたり、きっとたくさん苦労したんだね…

・新聞のインタビューに受け答えする際に記者の前でボイスレコーダーのスイッチを押すジョディは、微笑んでたけど心の中では「歪曲した記事書いたら容赦しないわよ」と思ってそうで強かった。

・うわー!良かったー!!!大拍手!!!となった矢先に、雑にバッサリ画面切り替わってどん底に突き落としてくるシーンはヤバかった。嘘だろ…???て観客全員心の中がざわついたと思う。びっくりしすぎて一瞬呼吸止まったわ。

・え待って2000年代の話なの?嘘でしょ。オバマ大統領は人種差別と戦ってきた人だから人権問題には過敏な人だと思ってた。アメリカに二度と歯向かおうとするな!!!とでもいうように、300人以上がこの主人公と同じ目に遭ったと思うとぞっとする…。ほとんど見せしめのために犠牲になったようなものじゃん。残酷な歴史…。

・アメリカのやり方があまりにずさんで、裁判に出せるようなものではない資料ばかり。これで何としてでも死刑にしろ!て無理ゲーすぎるし、そこそこ偉い人までそんな調子だったのは9.11への恨みでみんな冷静ではなかったのかもしれない。でも例の取り調べ方法は機密文書でちゃんと残してるのある意味凄い。書いちゃうんだ、記録しちゃうんだ。てっきり拷問の詳細は闇に葬るために文書化してないと思ってた。雑な仕事と正確な記録のギャップが凄い。これぞアメリカ合衆国。

・エンドロールでご本人たちが登場するんですよ。もうね、主人公の風貌といい、雰囲気といい、ソックリなの。人懐こい笑顔とかそりゃ泣くよ…心を失わずに帰還できたんだねって涙も出るよ。英語でインタビューに答えてたし、主人公の精神力には脱帽する。自分が同じ経験をしてたらきっとアメリカのこと大嫌いになったと思うし、英語を聞いただけでフラバして発狂しちゃうかも。ツラい目に遭ったのにアメリカ出身の女弁護士に「あなたのお陰で故郷に帰れた、感謝してる」と言えるの凄いよね。右の頬を殴られたときに左の頬を差し出すどころの話じゃなく、ハグして愛を振りまきそうな人。やっぱり「人間が好き」が彼の根底にあるんじゃないかな…そのくらい強烈に愛に溢れる人にみえた。今まで自分は悪意の前で愛は無力なんだと思ってたんだけど、もしかしたら悪よりも強い愛があるのかもしれないと思えてきた。愛は最強の武器説、あるかも。

・ジョディの三白眼が格好良くて、さながら「裁判という名の戦場で戦う女兵士」みたいだった。アクション映画にも出てほしい、絶対格好良い…。
さよこ

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