柏エシディシ

デカローグ デジタル・リマスター版の柏エシディシのレビュー・感想・評価

4.0
ポーランドの名匠の傑作。
587分。素晴らしい映画体験だった。
劇場で観られた幸福。

ワルシャワ郊外の共同住宅団地。
十戒をモチーフに綴られる十遍の物語。
キェシロフスキは映画を撮る哲学者。
ここで綴られるのは愛と神と幸福に関しての考察と寓話。

どのストーリーもまず着想から素晴らしい。
観客の人生と重ねずにはいられない実在感と普遍性がありつつ、映画的なサスペンスにも満ちてて引き込まれずにはいられない。
十分長編映画にも脚色出来そうなアイデアが1時間弱で無駄なくきっちり終わり、次々に連続するので、余計に観てるこちら側の中で世界や人物が育まれていく感覚を憶える。
また、基本それぞれの作品の撮影監督が違うということで、一定した統一感の中にルックや雰囲気に個性が出ているのも特徴的で飽きが来ない。

十遍の中でそれぞれの人物達が交錯する瞬間があるものの、さりげないのも上品。
それでいて、各々の物語のテーマやモチーフ、台詞がさざ波の様に呼応しているのも随所に見られて油断出来ない。
観る度に発見がありそうで今から再見するのが楽しみである。

人生の折触れて、観るタイミングで映画の印象や感想は変わるのは常であろうけれど、本作ほど観る人や観る時によって変化する映画はきっとないだろう。
今の自分は1.4.5.6.10が好きだが、これもまた変わっていくのだと思う。

また各話に共通して登場する物言わぬ男の存在が興味深い。
徹底した傍観者である彼は観客の分身なのか、それとも神の似姿なのか………
同情にも共感にもそして諦観にも感じられる冷たい青い瞳がスクリーン越しにこちらを見ている様に感じられる瞬間もあり、映画を見ているのか?それとも見られているのは自分ではないのか?とドキドキ、ゾクゾクする瞬間があった。
柏エシディシ

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