カツマ

秘密の森の、その向こうのカツマのレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
4.8
サヨナラの言い忘れ。愛する祖母はもういない。空っぽのベッド、誰もいない部屋。家の中は白ばかり。今はもう帰る人を待ってはいない場所。そこから程遠くはない鬱蒼と茂る森の奥に、同じ家がポツンとあった。それはそれはとある森の秘密のお話し。奇跡のような体験が二人だけの想い出を記憶の端に遺していった。まるで過去と未来の手をもう一度繋がせるかのように。

今作は『燃ゆる女の肖像』などで知られるセリーヌ・シアマがメガホンを取ったフランス映画らしいヒューマンドラマである。実際の姉妹を主演としてキャスティングしており、そこには子供たちのありのままをそのまま切り取ったような風景があった。秘密の森の向こうにいたのは幼い頃の母親の姿。いなくなった母、娘の前に現れたのは子供の頃の母親だった。暖かいシンセの音が二人の少女を厳しくも優しい世界に連れ出していく。きっと奇跡は起きていた。そこにいたのは確かに母だったのだから。

〜あらすじ〜

大好きな祖母が亡くなった。まだ幼いネリーは他の病室の人たちにはサヨナラが言えるのに、祖母にはサヨナラを言えずにお別れすることになってしまった。その後、祖母の住んでいた部屋を整理するために、ネリーたちは家族三人で数日間を祖母の家で過ごすことになった。
そこは母の実家。祖母の哀しみが立ちこめる家にいるのはあまりに辛く、失意の母マリオンは静かに塞ぎ込んでいた。翌朝、父に尋ねると母は出ていってしまったのだという。母がどこに行ったのかも分からないネリーは、昨日と同じように森の中へと遊びに行った。
その森の中にはネリーと同年代の少女がいた。彼女は母と同じ名前マリオンと名乗り、森の奥には祖母の家と全く同じ家が建っていた。そこには死んだはずの若き祖母の姿も。異常な事態に気付きながらも、ネリーはマリオンとの時間を楽しんだ。その時間が長くは続かないと知りながら・・。

〜見どころと感想〜

この映画は73分とかなり短い。が、最後まで鑑賞すると、この上映時間こそがジャストだったのだと思わせてくれる。そう、ラスト10分。そこに繋げるための60分、全てを悟らせる終わりの10分、という構成は完璧だった。少しずつ哀しみを、感動を積み上げて至る最後のシーンがあまりにも美しい。たった二つだけのセリフで涙が込み上げてくるだなんて、セリーヌ・シアマという人の感性と卓越した言葉選びに驚嘆せざるを得ない。それほどにこの映画はエンディングにたくさんの時間と想いを詰め込んでいた。

主演の二人、ネリーとマリオンを演じるのは二人の姉妹ジョセフィーヌ・サンスとガブリエル・サンス。双子ということで正に瓜二つで、親子という設定にも説得力を纏わせている。大人のマリオンを演じたニナ・ミュリスは『カミーユ』での主演が素晴らしかった俳優で、今作でも序盤と最後に素晴らしいセリフを残した。

撮影地は監督の生まれ故郷ということで、監督にとって愛着のある森で撮影したことが伺える。後半に特にインパクトを残してくるその音楽は『燃ゆる女の肖像』でも音楽を担当していたジャン・バプティスト・ドゥ・ロビエという人で、M83あたりにも似た暖色のシンセポップが魅力を放っていた。

この映画はラストシーンで一気に膨大な感情と情報量が押し寄せる物語。母が出ていった理由など、明らかにされない部分は多いが、それをラストの数秒間で悟らせてくれる。これぞ映画。説明するのではなく、印象的な短いシーンだけで伝える。それをとても繊細で美しい形で魅せてくれたのが本作であり、エンドロールに入った後に押し寄せてくる膨大な感動が、爽やかな余韻を残して去っていったのでした。

〜あとがき〜

自分はエンドロールで泣ける映画が好き。最後のシーンで一気に物語を完結させて、こちらに感情の残滓を委ねる、そんな映画が好きです。この映画は正にそんな映画でした。最後のシーンに全てが詰まってる、大好きなエンドロールでした。

カメラワークも音楽も一つ一つの絵を観ていたいと思わせる絵画に変えてくれていて、少しずつ上積みされていく演出がクライマックスに向かいながら効果をあげていたように感じます。映画館で観ていたら年間ベストだったかな、、そのくらいに好きな作品でした。きっとハッピーエンド、だったよね。
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