Omizu

アンラッキー・セックス またはイカれたポルノのOmizuのレビュー・感想・評価

3.8
【第71回ベルリン映画祭 金熊賞】
何に驚いたってJAIHOが配給であること!確かに普通の配給会社ではこの作品は公開できないだろう。

自己検閲版とはいえ露骨な性描写、攻めた政治的思想など物議を醸す要素が無数にある。

先日それこそJAIHOで観た、割と正攻法でつくられた『アーフェリム!』とは全く異なる作風。

パート2は最近のゴダール風というか、コラージュや再現ビデオ、実際(風?)の映像を交えて世の中の混沌を表す。それでもゴダールは結局「世界、芸術の美しさ」を表すのだが、ラドゥ・ジュテは「世の中の醜さ、愚かさ」をこれでもかと見せてくる。

ラドゥ・ジュテの「この世の中はクソだ!」というのに共鳴できればいいのだろうが、やっぱり僕はそれには完全には賛同しかねる。人は愚かで不完全、だからこそ美しいんじゃないのか。

マルチエンディングは面白かったし、「え!これで本当に終わり!?」という笑いで劇場を後にできた。

これはなんだろう、とにかく見てとしか言えない。タッチは全然違うけど、コロナ禍でより拡大した、人々の不寛容、無意識の悪意や偏見を描くという点で石井裕也『茜色に焼かれる』を思い出した。

奇妙奇天烈なブラックコメディかというとそれだけでもなくて、『アーフェリム!』にも通じる映画的センスは確かにあると思う。壁に描かれた絵とか、色んな店だったり、巨大なシャボン玉を道端でつくるおじさんとか、建物の上に置かれたギリシャ風の裸体像とか、直接は関係ないけど風刺にも思える描写が的確に配されている。

まあとにかく、『TITANE / チタン』でさえまともに思える今年一番の奇作。
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