アキ

べネシアフレニアのアキのレビュー・感想・評価

べネシアフレニア(2021年製作の映画)
3.1
初手こそイーライロスのホステルと似通った筋をたどるも、中途からやや社会的な視力が強くなり、単なる惨殺ありきだったホステルと比してしまって失礼だったとは全く思わなねぇ。ってのもヴェネツィアは美しい街である一方その民度については肩をすくめざるをえないんだ。例えばですね、ペストドクターのマスクをかぶった犯人が、街中で騒ぎを起こす。
追っ手が迫ってきたとき、民一人を人質にとり、首に刀をあてるや「こいつがどうなってもええんか」と言うが、周囲の民たちはやんややんやと何やら笑い顔。どうやらそれら一連の凶行を街中唐突に始まった演劇、卑しくいうならYoutuberのドッキリか何かとその場の全員が勘違しているようなのだ。しかも実際に人質が首切られて、こと切れた後でさえ、「またまた~」みたいな何一つドッキリを疑っていないご様子。不幸にもこうした事態がなんと数えただけでも3、4回は繰り返される。ここまでくると、よもやそうした呑気なヴェネチア民たちみて、普通にここの民かしこーと思える者なんていないわな。

で、監督さんの特定領域における視力の強さを如実に表しているのはラストの展開に象徴される。この手のスプラッターありきの映画では、あそこの場面ではもちろん〇〇という選択をとるのが常ではあるのだが、本作ではそれはとらず、むしろその選択をしなかったことで、劇中の二人の想いと監督の哲学に明確な輪郭が付与されたのは素晴らしかった。

監督自身も昨今コロナ明けて以降の重度のインバウンドについてはきっとネガティブな想いを持ってんだろう。ジャパンにおいてもとりわけ清水寺がとんでもないことになっているらしいし、当方が晩秋に赴いた東福寺紅葉だっけか、人だかりがすごすぎてマジで歩けんかった。こうしたことを鑑みるに、よもやおおよそ観光立国で潤うベェネチィアであれ、ガチで観光客を疎ましく思ってる民も少なからずいるのかもしんないな。
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