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ボーはおそれているのyumeayuのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.0
"あなたの忌まわしい行いを見ています"

まさに悪夢。いったいアリ・アスター監督の頭の中はどうなっているのだろうか。
主人公ボーの主観で語られる奇妙で予想外の里帰り。とにかく最初から最後までボーが恐れまくっていましたね。
畳みかけられる災難の連続に何が何だかわからないまま、観客はボーの不安や恐れに3時間も付き合わされる羽目に。

日本では本作をオデッセイ・スリラーと呼んでいるが、おそらく配給会社の宣伝部も本作のプロモーションには頭を悩ませたことでしょう。
本作は単純なスリラーでもホラーでもない。怖いというより、笑えてしまう部分も多いので、コメディと呼べるのかもしれません。
しかし、ひとつのジャンルに括るのは難しく、結局よくわからない映画というのが正直な感想です。

ボーがこの世に生を受ける瞬間から始まる本作の物語は、大きく4つのパートに分かれています。各パートでボーは訳の分からない者に襲われたり、変な物を吸ったり飲んだり、地味なことからとんでもないことまで、とにかく嫌なことがボーがぶっ倒れるまで続く。ボーが不安がれば不安がるほど、考えうる最悪の出来事に見舞われます。

本作で描かれる奇妙な世界は、常に強迫観念に襲われているボーが見ている世界だといえます。
とにかく初見では何が何だかわからない作品ですが、アリ・アスター監督の過去2作品を見ている方なら、テーマは一貫していますし、共通点も多いので、何となくは理解できるかと思います。

脈略のないことばかり起こるので混乱しがちですが、意外と丁寧なくらい伏線は散りばめられており、最後まで見ていれば物語の筋は理解できるでしょう。
しかし、肝心なのは何を語りたい映画だったのかというところ。
これに関しては自分も正直何なのかよくわかりませんでしたが、パンフレットや鑑賞前に読んだいくつかのインタビュー記事がヒントになりました。

監督は本作のことを「ユダヤ人の『ロード・オブ・ザ・リング』みたいなもの」と言い表していました。監督のルーツがユダヤ系ということもあり、本作の根底にユダヤ教があるのは明らかでしょう。
監督本人はユダヤ教の教えを実践していないそうですが、アイデンティティとしては意識しているそうで、別のインタビューでは「ユダヤ教の神に代わる神に最も近い存在は母親」と語っていました。
まさにこれは本作を読み解くうえで決定的なコメントだと思います。

「母親=神様」という図式を頭に入れて本作を見るとボーが体験してきた出来事に合点がいくでしょう。
本作はユダヤ人ならめちゃくちゃ笑えるコメディらしく、"ユダヤ教あるある"で溢れているようです。そういう意味では宗教感がだいぶ強い映画なので、日本人好みな作品ではないかもしれません。

日本公開から時間が経ち、ネットには様々な考察があふれているので色々と補完でき、ようやく作品の一部が理解できました。とはいえ、宗教的な要素を理解したから面白くなるかは別問題で、かなり人を選ぶ作品であるのは間違いないと思います。

個人的には楽しめましたし、まだまだ気になる点も多いので確認したいのですが、さすがにもう一度見るのはしんどいかな…。
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