スカポンタンバイク

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎のスカポンタンバイクのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
5.0
これは素晴らしかった。大傑作。
人気なのは風の噂で聞こえていたが、まさかここまでとは。

どうビックリしたかというと、物凄く不快な映画だったのだ。アニメの妖怪退治もののイメージで育ってきた筆者としては、近年の呪術廻戦的なキャラ萌えと異様なアクションシーンでビックリさせるような感じなのだろうと思っていた。勿論それもあるのだが、全然そういう事ではなかった。エンドロールが終わって電気がつくと、筆者の後ろの席の観客は「何これ...」と物凄く動揺していた。全くもって同感である。
ザックリ言えば、大島渚監督の「儀式」のような日本の戦後民主主義の家父長制と冠婚葬祭の嫌な継承文化への批判が根底にあり、そこにロビン・ハーディ監督「ウィッカーマン」や近年のアリ・アスター監督「ヘレディタリー/継承」「ミッドサマー」のような土俗の信仰が村全体で運営され、選ばれた人間がその文化の贄にされる円環構造の恐怖ドラマを取り込んだ内容なのだ。
そして、この映画が本当にそのテーマに真摯だと思ったのが、結局それは日本において現代まで変わっていないという事を示唆している点だ。鬼太郎が生きる現代においても、戦後の一般市民が思い描いてきたお為ごかしなユートピアは実現していない。ましてや、第二次大戦の傷は風化し、ニュースでは戦時の映像が流れ続ける始末だ。
最後の怨霊になってしまった彼の言葉は決して忘れてはいけない。日本の家父長制、世襲制の犠牲になった彼を、血族継承の犠牲になった彼女をこれ以上生み出してはいけない。

大変不快で素晴らしい映画でした。