ねまる

ノーカントリーのねまるのレビュー・感想・評価

ノーカントリー(2007年製作の映画)
3.9
邦題はノーカントリー
原題はNo country for old men
年老いた男たちに故郷はない。
なんてかっこいいタイトルだ。

ファーゴ文脈で語ってしまえるくらい、あまりにコーエン節だったので、原作がある作品なことに驚いた。
このタイトルも原作のタイトルらしい。

プロローグで好き、となる。
語られる物語、言葉たち、背景の映像。
あぁ、私はこれからコーエンブラザーズの作品を観るんだ。

コーエンブラザーズ作品には、
大抵重要な役で、保安官が登場する。
アメリカにおける保安官(Marshal、Sheriff)の仕事は、警察官(Police)よりも、地域の治安維持的な役割なのだろうな。
保安官は大抵いつも地域を守りきれない現実に突き当たる。
同じ人間のやることとして信じられない。
笑うしかできない。

今作の保安官、トミー・リー・ジョーンズ。
過去の話、小噺を突然するところ好き。
たいてい、なぜそんな話を?ってなるよね。
ぷつりと挿入されて、プツリと終わる小噺。
映画だから意味のある会話だけで作られるけど、日常では真意が分からない他人の話ってたくさんあるよね。なんかそんな感じ。意味ありそうで掴めない。

OLD MENとは彼のことなのだと思う。
代々保安官をやっていて、父を追うようにやってきたはずが、同じではないことに気付く。
もう自分が知っていたはず国はないのだ。
そしてそんな世界を変えることもできない。

おじいさんは銃を持たなかった。
同じようには出来ないんだ。
同じ火がもうこの国には届かない。

バビエル・バルデム=アントン・シガー
ファーゴ文脈でいえば、悪魔。
演技が素晴らしいので、そこにいるだけで怖い。
酸素ボンベが凶器というのも、映画の人気悪役ランキングに入るだけのことはある。
動機も過去も語られない災害のようだが、足は引きずるし、腕は折れるし、悪魔も実は人間である。
この役をラテン系のバルデムが演じていることは意図的なのだろうね。

ジョシュ・ブローリン
ファーゴ文脈でいうなら、ダメな凡人だ。
悪魔からたまたま金を盗んじゃった小悪党。
金を盗んだ男はどうなるのか。
小悪党がどうなるかは大体わかる。

ケリー・マクドナルド
コイントスの表と裏、選ばなくたって結果は同じだ。
結局この現実という名の悪夢から逃れる手段はない。
善人だろうと、平等に死は襲う。

映画でハッピーエンドを望むなら、彼らのアメリカンドリームを望むのだろうが、この世界では悲劇に転ぶ。世の中そう上手く回らないのだから、悲劇の中の喜劇にも心地良さがある。

ウディ・ハレルソン
よく喋るがまともに取り合わない感じ覚えがある。
「お前の従うルールのせいでこうなったのなら、ルールは必要か?」
それがどんなルールだったにしろ、
アントンは同じルールで生きていないのだろう。

可笑しな人たちの可笑しな行動がシュールに描かれて、物語は残酷に笑う。

またチャレンジしたい名作。
ねまる

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