ぼぶ

ノーカントリーのぼぶのネタバレレビュー・内容・結末

ノーカントリー(2007年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

お話としては、麻薬密売の取引が揉めて銃撃戦になってほとんどみんな死んだか戦闘不能になった後の、お金も麻薬も残ったところに、たまたま砂漠にいたモスが遭遇してお金を頂いちゃう。
けど、そのせいでお金の持ち主が雇ったおかっぱ殺し屋のシガーに追われ、事件を追う老保安官もメキシコマフィアも絡んでくる。
果たして冷酷無比な殺し屋から、お金と奥さんを守って逃げ切れるか、老保安官はどう出てくる…的な、西部劇の少し現代寄りな群像劇なお話。

バスターのバラードとかも西部のお話だったし、コーエン兄弟の得意フィールドでもありそう。

コーエン兄弟のどこか不条理なこの説明があんまり無い感じや、考え抜かれたカットや、繰り返されるシークエンスは結構好きで、これまたシリアスの中にある笑って良いのかわからないユーモアも、相変わらず今作にも盛り込まれている。

テキサスの雄大な自然の景色を見せてくれる画と、薄汚い建物や死体や血のリアリティな画の対比は強烈で、乾いたこの自然の前では改めて人は無力なことを教えられボーッとしてしまうし、自然にも人間にも静と動がある事を実感する。
殺し屋のターンとかのヒリヒリ具合はすごい。

この映画がよくわからん!ってなりそうなのは、主人公っぽくて感情移入しやすいモスが(その瞬間のシーンの描写すらなく)いきなりあっさり死んだり、それなら主人公はこっちかと思うベルの夢の話でフワッと終わったり、冷酷無比な殺し屋として描かれているシガーも傷を負ったりコイントスによって殺さなかったり、と違和感を覚える箇所が多々ある。
でもこれ、他の作品でも垣間見えるコーエン兄弟ならではの、死ぬ時は死ぬし何で生きてるかもわからないし、そもそも世の中って不平等だし不条理だよねっていう死生観やメッセージを踏まえてみると、しっくりくる。
だから、青信号でも事故るし、殺し屋でも返り血は嫌がる、みたいな。

そして後から知ったけど、邦題は『ノーカントリー』だけだが、原題は『No Country for Old Men(ここは老いたる者たちの国ではない)』と、イェイツの有名な詩の一節から始まっていて…最後のベルの夢の話は、ロバート・フロストの詩にリンクしてくる。
古き良き時代なんてものはもう無くて、現代では誰が何を考えてるかもわからないし、暴力や悲しみや不幸も突然やってくる。そんな中でも幸せなことが前には待っているんだと思って生きるしかないという、人間の無力さ無常感を非常にうまく表している気がする。

この映画のメッセージは、目の前の未来に幸せはあるから、老いる前にキラキラ強く生きよう!では、決してないと思うんだ。

音楽もなく、素晴らしい画と、光と影(ドア越しのくだりとか最高)と、好演技が積み重ねられて出来た、これぞ人生というような一作。
真っ暗なTVに2人は何を見たんだろう。
いつでも上着が買えるように、ポッケにお金は入れておこう。
ぼぶ

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