よしまる

コーダ あいのうたのよしまるのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
3.3
 2022年分のレビューを続けてて、評価が一番難しかったのがこちら。おそらくフランスオリジナルの「エール」を観ていなければもっと高スコアだったに違いない。

 両親と兄が聴覚障害を持つ家族(演じる俳優も同じ障害を持っている)の中にあってただ一人健常者である女子高生のルビー。漁業を営む一家の支えとなり、手話を使った通訳や身の回りの世話ばかりで自分のやりたいことが出来ない毎日。

 そんな彼女が見つけた「歌うこと」。聞こえない家族との軋轢、自分が進むべき道に思い悩む青春の葛藤を美しい歌声と力強い演技でエミリアジョーンズが熱演した。

 オリジナルでは「さすがフランス」と思わせるエスプリの効いた下ネタが楽しかったけれど、これがアメリカナイズされるとまあまあ直球な下品さになり、逆に少し恥ずかしく思えたのが面白かった。お国柄で変わるのはリメイクものの楽しみのひとつ。

 そして大きく異なるのが家庭の問題が酪農から漁業へとチェンジしたことで、事態は深刻さを増し主人公はより追い詰められている気がした。
 そのせいか、自分のしたいことと家族を守ることの狭間で苦悩するプロセスのうち、家族問題のほうに比重が大きくなりすぎて、彼女がいったいどのくらい歌がうまくて、なんのために歌うのか、歌うことの好き度が若干伝わりにくかったように思う。
 目当てでサークルに入ったはずの彼ピの存在感も同様。兄の奮闘やトラブルメーカーの父の存在が際立つほど、肝心の主人公の心の揺らぎがボヤけて見えたのがとても残念。(または自分に見る目がなかった💧)

 それでも合唱コンクールで耳が聴こえないことを表現したあの演出、そして父娘のシーンはやっぱり感動的でホロリとさせられ、ラストは大きな満足感を得ることができて幸せ。

 自分はオリジナルとどっちが良いかなんてあまり気にせず楽しめるほうだと思っていたのだけれど、もともとデリケートな描写になりがちなところを変化球でうまく捉えたフランスのほうが、手堅く直球でまとめてきたハリウッドよりも饒舌な感じがして個人的には好きかな。


 #ちょっと追記

たくさん考えて、同じ物語でも深掘りするところが違っている(ように見えた)ことに気づいた。
前作が聴覚障害を異常と捉えることなく女の子の青春と成長にフォーカスしていたのに比べ、本作は障害とどう向き合うかのほうに重心をおいたために、いわゆるカミングオブエイジがボヤけて見えたのだ。

と、合ってる合ってないではなくて、ボクにとっては刺さるところが違った、って話。