リコリス

ジャム DJAMのリコリスのレビュー・感想・評価

ジャム DJAM(2017年製作の映画)
4.9
レスボス島というと紀元前の女流詩人サフォー。なのに欧州目指す難民漂着、観光コロナ禍全滅、ギリシア経済停滞で地中海の輝くような明るさはない。

枠にはまらないジャムの生命力は正反対。母マリアがパリで継父となるカクルゴスのギリシア料理店で歌うとき、アルメニア人やアルジェリア人、故郷を追われた人々が故郷を見る。母が歌うのではなく故郷が歌わせる、その娘。軽々と国や困難を超えて行けそうな、しなやかな逞しさ。

継父がとてもいい。血の繋がり以上に真っ直ぐジャムと向き合い育て、絶望せずに音楽と共にに生きるすべを教える。

フランスから来たアヴリルと難民の脱いだ救命具の山。善意は無力、寧ろお荷物にすらなる。

全てを失い北欧に行く男が、陽気に踊りウーゾを飲んで立ち去る涙。破産し、残されたカクルゴスの観光船で島を去るジャムたちにも音楽。

ギリシアとトルコが融合した音楽(レンベティカというそう。ギリシアのブルース)にあった
父がこの月と太陽のある国を娘に、と歌うと、娘は要らないと応える。こんな国には、と。

鉄道の駅には焚火のあと。シリア難民の母国は地獄との落書き。地続きのユーラシア大陸の痛み、酷さ、生々しさ。日本でも東日本大震災の福島の方々や、直近では能登半島地震で故郷を離れざる得なくなった方々がいる。故郷とは、国や国境とは。ジャムが人々が歌い踊り、湧き上がる希望はあるのに、重しのような痛みが心に残った。

傑作。何で今まで見送ってたんだろう(恥)。また追いかけたい監督が一人。
リコリス

リコリス