もるがな

ナイブズ・アウト:グラス・オニオンのもるがなのレビュー・感想・評価

4.0
紳士探偵ブノワ・ブランの本格ミステリ2作目。相変わらずケレン味は一級品の映画であり、ミステリ特有の衒学趣味も相まってテンポが素晴らしく、全てのカットが「絵」になるというこだわりっぷりが凄い。個人的に笑ったポイントは宇宙人狼を嗜む探偵と、ジ・アニマルことバティスタの役回りであろう。バティスタは分かりやすいマッチョキャラだけに役を与えられるときは「ズラし」があるわけだが、今作のツイッチ配信者というのもイメージと真逆で面白く、知的に粗暴に脳筋にと、意外と振れ幅が大きいのも魅力の一つであると思う。

ドーナツの穴のような事件、と評した前作と同じく、今作の事件もまさに言葉通りのグラス・オニオン=ガラスのタマネギであり、幾重にも層が重なりながらも中心部の謎があけすけという奇妙な構成になっており、推理そのものは重要ではないという開き直りっぷりは中々に豪胆である。そんなアンチ本格ミステリのような構成でありながらもミステリとしての美意識は随所にあり、ミステリにさほど詳しくない人はミステリ雰囲気のエンタメとして楽しめ、本格ミステリに造詣が深い人なら、その偏愛的な倒錯っぷりを楽しめるだろう。振り返ればなんてことのないあっさりした事件だけに、調理の手腕で飽きさせなかったのは素晴らしいと思う。

謎解きが主眼ではないミステリというだけでかなり異質なミステリ作品ではあるが、ミステリとしての満足感はある奇妙な映画。一本の映画としても面白いけど、ミニシリーズとしてドラマも見てみたい作品です。
もるがな

もるがな