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スティルウォーターのしおえもんGoGoのレビュー・感想・評価

スティルウォーター(2021年製作の映画)
3.8
前情報無しだったので、最初てっきり「96時間」みたいなパパが無実の娘を助ける系サスペンスかと思っていたが全然違う。

多分サスペンスとして売り出すよりも、ストレートにヒューマンドラマとして売り出した方が良かったと思う。
多分そっち系を期待している人にとっては淡々とし過ぎて退屈だっただろうし、事件の真相や解決にはあまり意味が無いので。

以下ネタバレあります


義母?に頼まれたことも後回し、持って行ってと言われた写真も忘れる。前科や飲酒薬物の過去から見てもいい父親ではなかったようで娘にも信頼されず、返事だけは「Yes, ma'am」と丁寧だが真摯な言葉に耳を傾ける様子もなく、娘を悲しませたくないという理由はあれどその場限りの嘘を重ね、日々の祈りを欠かさない割に感謝や謙虚さも無い。
「5年間娘のために毎年フランスまで面会に行く」「娘の無実を信じて奔走する」という献身的で娘を愛する父親らしい行動のはずなのに、どこか違和感となってにじみ出てくる。
このマットデイモンの演技力はさすがだと思う。ただの武骨で無口な男ではない。とにかく最初からずっと絶妙に感じが悪いのだ。

父親のビルがこの調子なので、娘のアリソンもいまいち信用きない。彼女の丸く見開いたような目も不安感を与えてきて、彼女もまた愚かな父親を利用しようとしているだけなのでは無いかと思えてくるが、一方で異国の刑務所に一人で入ってる事を考えると、父親しか頼れる人が居ない切実さや来てくれる嬉しさは嘘ではないだろう。

しかしヴィルジニーとマヤ親子との交流で少しずつ変わり始める。
人種差別に怒り、率直で優しいリベラル派のヴィルジニーがどうしてこんないけ好かない男をここまで助けるのかという疑問はあるが、友人との会話でこれまでも色んなワケアリの困っている男たちに同情して助けて来た事が分かる。
ある意味ではリベラル派の悪癖でもあるのかもしれない。

あらゆる意味で真逆のヴィルジニーとの生活は同じ肉体労働に追われる日々であってもビルには初めての安らぎで、ビルがマヤと過ごしている時間は、本来は娘のアリソンが子供の頃に向けているべき愛情だったのだと思う。

結局は自らの手でその平穏な日々をぶち壊してしまったビル。
気持ちは分かるけど、それはダメよ。一人でやってるならいいけど、ヴィルジニーとマヤを巻き込んだらダメでしょ。そして一番はマヤに嘘をつかせてはダメでしょ。そういうとこなのよ、ビル。
でもビル自身も母親とも疎遠で家族に恵まれず、経済的にも苦しく、夢とか無い人生だったんだろうな。

平穏を失ってでも取り戻した娘からは衝撃の真実が告げられるものの、恐らく見ている多くの人にとってはこの真実は(実行犯が誰かは別にして)半ば予想していたことだと思う。

せっかく逃れたと思った故郷に成長できないまま逃げ戻ってきたアリソンにとっては昔と同じ場所であり、異国での生活で初めて自分の人生に欠けていたものを見つけたビルにとっては何もかもが違って見えただろう。
スティルウォーターという町の名前がよく表していると思う。

これからビルはアリソンに向き合っていけるのだろうか。どうやって人を愛し受け入れればいいか学んだビルならきっと大丈夫だと思いたいところだ。


その他
・街並みがとても美しい
・アリソン役の子はどこかで見覚えがあると思ったらリトル・ミス・サンシャインのあの子だったとは!大きくなって…
・フランスの人種差別もなかなかきつい
・明らかにフランス語が喋れないビルを大学の授業に招き入れる教授。いけずなのか天然なのか善意なのか…
・ヴィルジニーの友人達との食事会は例え言葉が通じていたとしてもビルにとってはめちゃくちゃ居心地悪かっただろう
・アキームが地下室にいる事を警察に通報したのはヴィルジニーという事でいいのかな?後々ヴィルジニーにとばっちりが行かなければいいけど…
・マヤの事情聴取をした刑事さんの視線が鋭くて有能そうで良かった
・ビルがアリソンが同性愛者であることをどう思っていたのかもうちょっと描かれていても良かったかも。何となく受け入れてこなかったのではないかという気がするのだが
・裏切られたのにマヤにちゃんとお別れを言わせたヴィルジニーは偉いね
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