じゅ

ジョージタウンのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ジョージタウン(2018年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

うおおすげえ
壮大にくだらねえ


ウルリッヒ・モットには傍目には母親に見える年齢差の妻エルサ・ブレヒトがいた。彼女の自宅でウルリッヒが晩餐会を開いた夜、エルサは遺体で発見された。娘のアマンダ・ブレヒトは、兄くらいの歳の義父を信用していなかった。エルサの殺害容疑をかけられたウルリッヒの裁判が始まった。
2人の出会いは、ウルリッヒがドイツからアメリカへ移って1年程度の頃に遡る。上司のIDを盗んで政界のパーティに忍び込んだウルリッヒがエルサと出会い、彼の巧みな話術に惹かれたエルサは夫亡き後に再婚した。エルサは著名な記者であり、そのコネでウルリッヒは自ら立ち上げたコンサル関係のNGO法人"賢人会"を拡大していく。しかし2人でニューヨークに宿泊した時、事件が起こる。エルサは買い物と友人とのお茶会で外出した。ウルリッヒは国連の総会で演説をするとのことだった。しかし、予定より早く帰ったエルサは若い男と裸で寝るウルリッヒの姿を目撃する。以降、ウルリッヒはそれまで2人で住んでいたエルサの家を2年間空けることとなる。別居してしばらく経った頃、エルサに1本の電話が入った。ウルリッヒからだった。彼はイラクにおり、米国との和平のため単身で行動しているとのことだった。国務省にも報告を入れながら単独で動いていたウルリッヒだったが、ついに目的を成し遂げたとのことでエルサの元へ帰った。元通りの生活に戻った2人。ある日、いつもの朝のようにウルリッヒが渡してくれた郵便物の中に、エルサはある1通の封筒を見つける。
時は戻ってエルサが亡くなった日。晩餐会を巡ってエルサともめたウルリッヒは、一本の電話を受けて家を出た。とある店で待ち合わせた相手は、いつかニューヨークで密会していた男。男はウルリッヒに別れを告げに来ていた。男と別れて帰宅したウルリッヒに、エルサは不貞を問い詰める。やがて互いの地位を巡る言い争いに発展した。そこでエルサはある日受け取った封筒について取り上げた。マイアミの安宿からの郵便物。ウルリッヒは2年間、イラクで意義ある任務に取り組んでいたのではなく、宿の受付係として食い扶持を繋いでいただけだった。逆上したウルリッヒは勢いよくエルサに詰め寄り──。

物語は、全てが真実ではないにせよ、事実に基づいている。ウルリッヒのモデルとなった妻殺しの男は、50年の刑期を刑務所で過ごしている。


Franklin Foerによる『The Worst Marriage in Georgetown』というニューヨークタイムズの記事が土台になってるそう。夫が妻を殺す話なら確かに「最悪の結婚」ってかんじだけど、個人的には夫の取り返しのつかない規模の見栄と虚言も非常に興味深い。

映画に焼き直された物語として見ると、拍子抜け感がめちゃめちゃおもろい。外国人が(遠巻きではあれど)政治に関する仕事に就いた1年後に上司のIDをくすねて政界のパーティに忍び込むとか、スパイ絡みの事件かと思ってた。話術が巧みだし勢いの嘘と誤魔化しが上手いし。落ちてたハンドバッグを拾って「エルサ・ブレヒト」のネームプレートを見てから接触するとか、彼女が諜報の対象だったのかと思ってた。親子くらい歳が離れた夫婦ってなかなか珍しいと思うし。
と思いきや、まじでただの野心家で、憧れのエルサ・ブレヒトさんに偶然出会えてしまっただけだったらしい。自分にとっても他人にとっても悲劇的なまでに虚栄心が大きくて、口の巧さも相まって嘘とハッタリが広がりに広がって、とっくに取り返しのつかないことになってるのに(あるいはとっくに取り返しのつかないことになってしまったからこそ)さらに嘘を上塗りし続けた模様。
ほんとしょーもねえ。しょーもねえけどメンタルとかは素直にすげえ。


冒頭と最後で兵隊さんの隊列を見下ろして敬礼されてたのは何だったんだろう。そうありたかったんだろうか。図太い嘘を続けすぎてとうとう自分すら騙すことに成功してしまったんだろうか。俺は幸か不幸かあんな太く長く嘘つけてたことないからなかなか想像もできない。

准将だったかを任命する書類は少なくともネットで同じフォーマットのものが作れて、胸章はその道の人がどこの軍のものかも知らない見たこともないもので、まあ要は全部勝手に自分で作っただろと。どこへ行くにも着ていた軍服もコスプレ用品が売ってる店で買ったのかな。聴取か何かで署に行く時とかしっかり靴を磨いてて、例の謎の胸章にブラシかけてて、えらい気合の入りようだった。嘘なのにな。
わざわざ裁判の場で弁護士も通さず判事に階級付きで呼べとかいい出すメンタルすごい。嘘なのに。その無理な証明を弁護人に異常な上から目線で押し付けてたのとかすごい。嘘なのに。自分で弁護するとか言い出してたのも凄かった。結末を迎える前はこのウルリッヒという人物について、本当にとんでもない能力を持ち合わせてる謎めいた人物なんじゃないかと思う節がほんの若干あったから、もしかしたら自己弁護もできちゃうのかなと思ってた。でもどうやらそういうわけでもなかったのか。
全部ひっくるめて、過剰な自信によるものなのか、自分すら自分の嘘を信じ始める錯覚に陥っていたのか、他の何か想像もつかない心理によるものだったのか、なんにせよめちゃめちゃおもろかった。


まともなクリストフ・ヴァルツ観てーなー。
じゅ

じゅ