じゅ

宇宙探索編集部のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

宇宙探索編集部(2021年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

製作と配給めっちゃ多いな。パッドマンくらい紹介しまくるじゃん。


とある番組で大宇宙の神秘を語るは、雑誌『宇宙探索』編集部のタン・ジージュン。20年後、編集長としてタンが率いる宇宙探索編集部は深刻な財政難に陥っていた。雑誌は売れず、仕事は精神病院での講演くらい。暖房を動かす金すらない。
そんなタンが掴んだ1つの事件。ある村に煌々と光る何かが光の筋を引いて落ちてきて、その村にある獅子の像の口に封じられていた玉が持ち去られたという。タンはクルーを集め、現地を目指して西へ向かった。
出会ったのは、宇宙人との邂逅を主張してその骨を520元で売りつけた農園のおじさん、20年前に学会で会った赤帽子先生、そして、スン・イートンという詩人の青年。宇宙からの信号から頭を守るために鍋を被ったその青年は、玉を巡るある使命を持つという。獅子の像に雀が群がる時、その使命を果たすための旅が始まる。青年が何かに取り憑かれたかのように何かを語り始め、一瞬にして夜が朝に変わる怪異を皆が目の当たりにした日、その時は訪れた。
タン先生の一行はスン青年に導かれるまま旅路を進む。山へ分け入り、スンとはぐれ、クルーが離脱して、なおもタンは山の奥へ奥へと進んだ。潜水ヘルメット然とした巨大なポッドが打ち捨てられた場所で、タンはスンと再開する。スンに連れられて広い洞窟に入ったタン。その壁には何者かが描いた大量の壁画。一晩を明かした朝、スンは洞窟の別の出入口に佇んでいた。駆け寄ろうとするタンを後目にスンが詩を詠み始めると、洞窟の奥から飛び出してきた無数の鳥がたちまちスンを包み込んだ。スンの使命とは、玉を元あった場所に戻すこと。「先生はここまで。僕は進むよ」と、スンは彼を包み込む鳥の群れと共に光の中に消えていった。

タンの甥の結婚式。タンはスピーチの場で洞窟で見た夢のような(あるいは夢だったかもしれない)光景を語り、宇宙や人類誕生の意味、そして愛について語った。
『宇宙探索』は休刊となる。編集部のテナントは撤収した。とある講演の場、タンは2年前に亡くした娘に宛てた詩を詠みかけ、言葉を詰まらせた。


っていう。

予告編があまりにも良すぎたので思わず行ったやつ。
くたびれ果てたようなおっちゃん(←この人こそがタン・ジージュン先生)が静かで薄暗い部屋でテレビに砂嵐を映している。曰く、砂嵐は宇宙からの信号を可視化するものだとかなんとか。テレビの上にお手製みたいなアンテナを置いていて、アンテナ台から伸ばした線をある装置に接続して、その装置を頭に被る。この頭に被る装置というのがどう見てもヘッドスパワイヤー(頭ぞわぞわするらしいやつ)なんだけど、頭につけることで宇宙の信号を頭でキャッチできるんだとか。
そんなん、一目惚れするに決まってるだろ!

電磁波はずーっと宇宙を漂ってて、そいつらは要はビッグバンによる宇宙創生の残照なのだと。
1936年に初めて放映されたベルリンオリンピックの電波も宇宙を漂ってるはずで、いつか地球外生命体がその電波を拾ったら人類の存在を知ることになるのだと。
もう、そんな話大好き。宇宙創生の残照も、どこかにいると信じて止まない地球外生命体が持つであろう受信装置も、人類のテレビとかいうもののフォーマットに合ってないとしゃーないんだけどな。

果ては、宇宙人と出会えたら地球上の争いとか何とかが全部なくなるみたいなことも言ってたか。どういうことなんだ。愛してる。


タン先生の思想は全体的に興味深い。もっと様々なことについての見解をざっくばらんに聞かせてくれても面白かったと思ってる。

精神病というのは特別な人を区別するラベルであって、彼らは脳の神経のつくりが他大勢と違うから宇宙からの信号への感度も違う、みたいなこと言ってた気がする。人類と地球外の知的生命体の文化の関係を解明する鍵になる的な。
いくらか俺の記憶違いはあろうけど、おおよそ論旨は外れてないと思う。改めて振り返ってみると何言ってるかわかんなくて素晴らしい。
地球外の知的生命体が地球にやってくるとしたらそいつらは我々より高度な科学技術を有しているので同時に道徳水準も高いゆえ我々に敵対的じゃない、というのだけちょっと好かんかった。技術のレベルと道徳のレベルはほとんど相関しないと思います。

宇宙のこと以外にも言及してて、必要以上に栄養を摂取することとか、生殖以外の目的で性欲を発露することは欲深い行いで、人類の進歩を妨げるのだと。
カルト教団みたいな思想だなと思った。具体的にどの、という解像度はないけども、強い締め付けを是とするかんじの主張が広く根付くカルト教団像一般に合致するかなと。
何がタン先生を独りカルト教団にしたんだろう。人類規模にまで膨れ上がった思想とか、孤独とか?


まあでもそんなタン先生、望遠鏡はテレビとか冷蔵庫とかと一緒に一家に一台持たれる必需品になるって昔言ったのだと。皆が空を見上げるって。あの助手みたいな姐さんがかつてを振り返って嘆くくだりがあったけど、確かに若い頃にあの熱量でそんなこと言われたらまんまと付いてってしまうな。教祖の素質あるんじゃないか。
一方で俺はおもちゃの顕微鏡キットを買ってこの頃ずっと下ばっか見てます。


タン先生から視点を引いて物語の方を見てみても、夢だけど夢じゃなかった!みたいな感覚がたまらなく好き。

農場のおっちゃんの宇宙賽銭箱とかいうふざけた箱にタン先生が有金全部放り込んで、死んだ宇宙人を保存しているという箱をいざ開けたら、中に横たわっていたのはクソみてえな質のお人形だった。なんでパンツ履かせたんだ。
そうくれば千切れた片脚の骨とやらも木彫りの棒にニスでも塗っただけのようにしか見えなくなる。今でも少しずつ伸びているとか言われたところで。当然棒は乱雑に扱われて、野良犬に齧られて、思い立ったように森に放り投げるように捨てられる。
その棒が、最終的にはなんと本当に伸びる。腕の長さほどもなかったものがスンの背丈くらいまで伸びる。あれはただの520元の粗末な土産物じゃあなかったらしい。あるべき場所に返されるべく、スンと玉と共に旅立っていった。(というか、脚の骨がそこまで伸びるなら宇宙人どれだけ巨大なんだ。)

雀の大群に包まれたスンが光に消えた光景を、タン先生は夢だったと思うと言った。でも、スンが被っていた鍋は植木鉢代わりの形で残っている。はぐれたスンと再開したところからの一連が全部、極限の疲労だの毒キノコだのが見せた幻覚ではなかった。やっぱ我々存在の証明のため鍋くらい被っといた方いいな。


スンもいいけど、行く先々にしれっといる隕石ハンター赤帽子先生も地味に好きで、いい感じにほんのり怖そうな雰囲気を醸し出すのがまじでいい仕事してた。
例の獅子の石像に雀が群がる前のくだりで、スンの声が流れてきた放送局に行っても誰もいなくてスンを探して駆け回るところで道端に赤帽子先生の変な乗り物が放置されてたところとか。タン先生がどんどん山の奥に進んでった結構奥のところに隕石ハンター帽子が落ちてたところとか。
結局あの人どうなったんだろう。


タン先生によればあの赤帽子先生も詩を紡ぐ1文字ってことなんだな。俺たち1文字ずつが紡ぎ合わさってって十分長くなった時、人類の存在意義がわかるって。
ごく個人的にはたまたま生まれちゃったから折角なので絶やさないように生きてるってだけのもんだと思ってるけど。
じゅ

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