じゅ

ザ・クリエイター/創造者のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

絶対「核」の字は可読性しか気にしませんでしたみたいなフォントで書くべきだと思う。そこは置いとくとして。


2060年代頃、ヒトと遜色ないくらいの進化を遂げたAI。料理人として、運転手として、スポーツ選手として、公僕として人間の生活にAI搭載のロボットが浸透して久しい頃、ロサンゼルスの真ん中で核兵器が爆発させられた。西側諸国は全面的にAIを禁じて排除した一方、ニューアジアでは人間とAIとの共存が続いていた。自衛のためと称してニューアジアのAI掃討を続けるUS。10年かけて建造した浮遊型の軍事施設ノマドの力でAI撲滅の一歩手前まで来ていた。一方、AI関連のシステムの創造者、通称ニルマータは戦況を変える兵器アルファ・ゼロを生み出した。
USはアルファ・ゼロの破壊のためにジョシュア・テイラー軍曹を送り込んだ。ジョシュアは元々ニルマータを捜すため近親者のマヤへ潜入捜査として接触していたが、やがて愛し合う仲となり子供もできていた。軍の強襲でジョシュアはマヤと生き別れ、再会するために作戦に参加した。突入したラボで、ジョシュア達は厳重に閉ざされた巨大な扉を発見する。ハックして開いた扉の奥にあった兵器の実体は、幼い少女の姿の模造人間(シミュラント)だった。それはマヤの居場所を知っているらしい。ジョシュアは、その兵器を破壊せずに連れ出した。
マヤがいるという「ディエンダン」を目指すジョシュア。軍もAIもアルファ・ゼロを狙いジョシュアを追う。アルフィーと名付けたその兵器の力とは、周囲の電気機器を意のままに操ることだった。アルフィーの助けも借りながら2人は逃亡を続ける。シミュラントの"兄弟"ハルンと再開したジョシュアだったが、軍の襲撃に遭いアルフィーは重傷を負う。ハルンはジョシュアと共にアルフィーをニルマータの元へ届けることにした。
その場所は、ディエンダン。ニルマータの正体は、ジョシュアの最愛の妻であるマヤだった。マヤは先のUSの軍の強襲により胎内の子を亡くし、以降5年間意識を失ったままだった。アルフィーは治ったものの、依然マヤは眠り続ける。死すれば転生できると憐れみつつもニルマータの命を奪えないAIに代わり、テイラーがマヤの生命維持装置をオフにした。その後テイラーとアルフィーは軍に見つかり、基地へ送還された。
アルフィーを焼却処分しようとした軍を出し抜いて2人は逃走した。月へ向かう交通機関をアルフィーの力でハックし、そのままノマドへ。ノマドのクルーが緊急で脱出する中、軍はAIの拠点を狙って総攻撃を始める。アルフィーはミサイルの制御装置を止め、その間にジョシュアはミサイルに爆弾を仕掛けた。アルフィーはノマドの中で見つけたマザーのシミュラントを持ち帰ろうとするも断念し、脱出ポッドへ向かう。防衛システムに阻まれるも、ジョシュアはアルフィーをポッドに入れて射出した。

爆発・崩壊するノマドの中で、ジョシュアはアルフィーが起動しようとしたマヤのシミュラントを発見する。マヤの記憶を有して動き出したシミュラントを通じて、ジョシュアはようやく最愛の妻との再会を果たした。
アルフィーを乗せた脱出ポッドはAIが住む村の辺りへ着地した。ポッドを出るアルフィー。鳴り止まぬニルマータへの歓声。


アルフィーの子役はマデリン・ユナ・ヴォイルズというのだと。9歳だそう。ディエンダンでマザー(マヤ)と会ったとこの顔めちゃめちゃ凄かった。
ようやく初めて会えたマザーが何の意思疎通もできないまま目の前で"オフ"になって、一旦ジョシュアの腕の中で子どもらしく存分に泣かせてやってほしかったところに追手が来る。前の場面で追手が来たのを察知してたところがあったと記憶してるから、まあマザーが死んだ時の場面でも気づいたんだと思ってる。その時の、悲しい寂しいぐしゃぐしゃの泣き顔と、驚きと恐怖(?)で目を見開いた顔が混ざったかんじ。9歳にしてそんな顔できるんか。

役者としてどうとかは置いといて、あくまでシミュラントなる機械として見るなら、確かにそんな細かい感情の機微を模倣できる機械は俺も欲しい。こんな声色でこんな表情をするとどんな感情が何:何で複合されてるように見える、みたいなのを超超高度に学習したに過ぎなくて、ジョシュアの言う通り結局プログラムでしかないのかもしれん。けど、外から来る情報じゃなくて内から来る感情で動いてるように俺が見えればいいわけで。
べつに電子機器の数々を拝んで操る剛アレクサみたいな性能までは求めないけど、ブラザー謙ドロイドとか普通にたまに相談相手になってほしいかも。

「アルフィー」な。まあ確かに「キャンディ」だとなんか大人のお店での源氏名感が強くて少女にはなんか違う気はする。とはいえ「アルフィー」だとそれはそれでメリーアンで星空の下のディスタンスなかんじが強えのよな。

ニルマータの後継者、意識不明のマヤのとこに持ってかれてアルフィーはどうやって直されたんだろう。死体の頭から情報を取り出す装置があるくらいだからマヤの頭からアルフィーの直し方を取り出すこともできなくはないのかな。ニルマータがハードウェアまで手掛けてればだけど。


シミュラントの皆さんって、当然戦闘用に造られたものじゃないから、そんな彼らが銃を手に取って敵とはいえ人間に向かって引金を引くようになったの凄いと思う。良くも悪くもものすごい高度な意思決定ができてそう。
警察のロボットがいるから人に向けて銃を撃つことが全く不可能ということではないとは思うけど、どこそこで武装した犯人が云々とかそんな小規模の話じゃないしな。

元々人を殺すことの対極にあるような価値観を持たされてたはずで、自分の意思で人を殺すとか論外の外の外みたいなかんじだったと想像してる。それを今や、アメリカ人を敵と見做して命を奪うことを目標にした戦闘を行うように。
完全に想像だけど、自らの生命より人間の生命を優先するようにできてただろうから、自衛のためではないんだと思う。多少はあろうけど。どっちかというと彼らが共生してるニューアジアの皆さんのためというのがでかいと思ってて、現地人からの自分達への依存度が無視できないくらい大きくなったから死ぬわけにはいかなくなったとか。でもそれってニューアジアの皆さんとUSの兵士の命を天秤にかけたことになって、結果として前者の方に傾いたことになるか。それまではニューアジアの民間人だろうとUSの兵士だろうと同じ人命で、天秤にかけるなんて考えたこともなかったと思う。シミュラント達は自らの目的関数か何かを全く違う形にアップデートしたわけだ。
自由云々言ってたのも戦争からの自由っていう文脈だったから、まあ大筋は「生き延びたい」ってことなのかな。でも1個印象に残ってるところがあって、アルフィーが他の人間の子ども達と一緒にロボットの話を聞いてたところ。元々奴隷として生まれた我々だがいつか自由を掴むんだ、みたいなこと言ってたと思う。これは戦争云々の文脈じゃないよな。ニューアジアの現地人が対等に接するうちに生じたものなんだろうか。そんな反乱因子、ニルマータか誰かが初めから仕込んだものとは思えない。ユーザが自分らと対等であることを望んでるからそうなろうとしてるというのなら、えらい感動的だ。(あるいは、子どもの教育用に仕込まれた台詞を垂れ流してる可能性もなくはないかも。)

にしても、ニューアジアのシミュラントの皆さんの間で「我々戦うべきか滅ぶべきか」みたいな対立が起こらなかったのは少し不思議だったかも。巻き込まれて殺される現地の民間人も大勢いる中で、自分らAIをまとめてオフになれば終結するっちゃするけど、それを主張する個体が全くいなかった。
侵略のための戦争じゃなくてAIを掃討するための戦争なんだよな。まあ確かに、メリケンのとあるアホがミスって自分の国で核を爆発させたのを機械のせいにして別の大陸の機械まで滅ぼそうとするとか筆舌に尽くしがたいアホだわな。滅ぼされる筋合いがなさすぎる。といっても、そんな壮絶な理不尽に対する考え方は人類と違ってても自然というか、諦観する方に寄っててもいいんじゃないだろうか。自分が破壊されて泣く人間がいるのもそうだけど、自分が破壊されない限りはその泣く人間も巻き添えの危険と隣り合わせなんだよな。
完全に自律した存在なんじゃなくて、どっかで一番大事な意思決定をするマザーコンピュータ的なのがあった可能性がほんの僅かにある?ある根拠もない根拠も言えないけど、直感が「ない」って言ってるなー。

そういえば、ロックオンされたロボットが子どもらから距離を取るように走るとこはよかった。泣かせやがって。


本当に人間と機械が互いに大切な存在になりすぎた時、ジョシュアが最初に向かった友人みたくシミュラントを「ベイブ」って呼ぶような状況が生じるんだな。例えばシミュラントが人間に性的な見られ方とかされててもおかしくないのかもしれない。
でも何かどこか重要な一線を守る措置が必要で、シミュラントに機械的な見た目の部分を残しておいたのはそういう措置の一環だったのかもと想像してる。中身が人間になりすぎたから、外見を完全に人間にしないでおく、みたいな。
やろうと思えば側頭部を人工の皮膚で覆って耳そっくりなものを付けて頬の下の筋を消すくらいできるはずだよな。あれだけ顔の正面を作り込めるんだから。まああんなに技術の進展が目まぐるしい世界であってもリアルタイム翻訳の精度はアレだったが。(子どもをつくってどうのこうのとか、母親とどうのこうのとか、ものすっごい罵倒してることは通じたけどもw)翻訳精度は置いといて、シミュラントの見た目が未完っぽいままだったのは、あえてそうしたと思ってる。人間側が自分らとの境界を見失わないために。

あとはまあ、アルフィーの耳の辺りのぐるぐる回ってる穴の部分に何かの器具を突っ込んで色々見てるシーンがあったけど、側頭部のメカっぽい部分を露出させとくとメンテナンス性もいいのかもしれん。


ところで、何かと「天国」の概念が押し出されてたっけ。ジョシュアは天国に行けないとか、ディエンダンとは天国の意味だとか。

ジョシュアの最後の方の台詞はだいぶ気になってる。初めの方では、天国は善人が行く場所だから俺は行けない、みたいなこと言ってた。アルフィーが私は人じゃないから行けないねみたいなことを言って、ジョシュアは否定しなかった。それが、ノマドの脱出ポッドでアルフィーを逃す時には天国で待ってる的なことを言ってた。いつの間にかジョシュアもアルフィーも天国に行けることになってる。
あれはジョシュアの自己認識が天国に行けない悪人から天国に相応しい善人に変わったんだろうか。あるいはアルフィーを宥めるその場凌ぎの文句みたいなもんで、べつに善悪の意識が変わったわけじゃないんだろうか。
少なくとも、最愛の妻を愛する前から裏切ってたこととか、嫌気が差してた軍に従うこととか、彼にとってなんか違う気がするような行動はやめたか。心の声に従ったというか。そう思えば、あのとき遠回しに己を悪人と言ったシーンでの自己嫌悪的な(俺にはそう見えた)気持ちは払拭されててもいい。彼だけにとっての彼は少なくとも善だろう。

善悪の話であれば、実際のとこAI倫理みたいな講習は定期的に受けさせられてるけど、何かミスった時に機械のせいにするっていう観点はそういえば聞いたことなかった。機械が何考えてるか、もうだいぶわかんないようになってしまったもんな。伴って「なんか意味わかんないけど機械が勝手にやりました!」って言い張りやすくなってる。まあ現状まだ俺らがユーザで機械がツールっていう力関係がはっきりしてるから「勝手にやりました」で責任逃れなど到底できないけど、もうちょい先の将来で機械がもっと自律的になった時どうなるだろう。自動運転の車が事故った場合の議論みたい。

いや、でも、善悪より大事なポイントありそう。ジョシュアが天国で待ってることより、アルフィーが天国で待たれてる方がなんか大事な要素な気がする。と直感が申してる。つまりは、ただの機械だ感情も偽物だってスタンスだったジョシュアがその機械を自分らと同じ存在だと認識したわけだ。(少なくともアルフィーについては。)
あと、ディエンダンって誰が何のために築き上げたんだろう。あの「天国」、僧侶がみんなシミュラントだった。機械が宗教を始めるってすごいな。そんなところまで人間的になってるとは。

つまり、違う角度から同じこと言うだけだけど、内面において人間と機械の境界が薄まりに薄まってるしこれからもさらに薄まる世界観だったんだなあと。
俺個人の感覚だと、機械って俺らを助けて尽くしてくれるものだと思ってる節があるけど、もしかしたらニルマータの設計思想は違ってて本当に限りなく人間に近いものを目指したのかもしれない。


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見方を変えるけど、ロサンゼルスの核爆発の件で本当にAIは潔白なんだろうか。
シミュラントのハルンの言うことには、人間が何らかの入力エラーを起こしたせいで爆発した事故を、人間から職を奪おうとしたAIが起こした事件のように仕立て上げられたと。

納得できる要素はある。
1つ目。人間による政府ならあり得なくもなさそう。何十年後とかにものすっごい特大スキャンダルとして明るみに出るやつ。
2つ目。職を奪う目的に対してロスの真ん中で核を爆発させるという手段は無茶苦茶すぎる。職どころじゃなくなるだろうし。カバーストーリーとして無理がある気がする。

一方で懐疑的に思う要素もある。
1つ目。ハルンはどうやって知ったんだろう。離れた大陸に住むハルンが知ってるなら他のAIの皆さんも知っていいと思う。であれば声を大にして主張してもいいと思う。
2つ目。AIが人間みたく職探しするというのはあり得なくもなさそう。俺らの現代の感覚で言えば機械は人間が飼うものだけど、あれだけ自律して人間と対等に共生するくらいに発達してれば、機械が自分の食い扶持を探したり納税したりする社会の仕組みになっててもおかしくないのかも。
3つ目。機械の思考(みたいなもの)がどう変わってくかまじでわかんない。非戦闘用だった(と俺は勝手に思ってる)シミュラントが銃を手に取るくらいの変化はできるんだから、それなりに長い時間をかけてアメリカ在住シミュラントの皆さんが何を考えるようになったかわかったもんじゃない。それにラストシーンも地味に気になってて、アルフィーに向けて「ニルマータ」コールが湧き上がってたと記憶してる。冒頭の説明ではニルマータ(どっかで創造主みたいな意味らしい)ってAIから崇拝される人のことだったと思うけど、その座がマヤの父とマヤからアルフィーに、つまり人間から機械に移った。シミュラントの神がシミュラントになった。少しずつ少しずつ、脱人間みたいな方向に動いてってるのかも知れん。

なんか取り留めもないけど、要は機械の反乱の芽が少しずつ育っていってる可能性もなくはないなと思った次第。
じゅ

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