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殺人鬼から逃げる夜のarchのレビュー・感想・評価

殺人鬼から逃げる夜(2020年製作の映画)
4.1
出来た脚本だなと思わせる要素って何より"整理"されている事だと思う。もっと簡単に言えば第三幕が第一幕などで設定したテーマへの意趣返しになっていることだ。

本作は世間が外見や印象に頼って人間性や関係性を判断するその浅はかさを突いており、その「見え方」をテーマに聾者の女性と殺人鬼の男の攻防が繰り広げられる。
男は映画ではよく見られる快楽殺人者でそれ以上でもそれ以下としても描かれないが、面白いのが「大量の衣装を事前に用意している」という点だ。それらは必ず車で持ち運び、殺す際に状況に応じて服を変えているのだ。
殺人鬼は「人は見た目で判断される」ことを熟知し、それを操り殺人"後"を立ち回る。
対して彼女は、一見して健常者であるが聾者であり、人と簡単なコミュニケーションをとるのも苦労する。そんなしっかりと時間をかけてコミュニケーションを取らなければ意思疎通できない彼女は周りからすれば「外見」や「状況」で判断するしかない人であり、「人は見た目で判断される」社会において、被害者となりやすいのだ。

この映画は正直、聾者故の沈黙を生かしたスリルは足りていない。だが上述した「人は見た目で判断される」という社会の真理を突いたテーマに基づいたストーリーテリングに成功し、見事"意趣返し"してみせたという点でやはり見事な脚本と言わざるを得ないし、面白い作品だった。
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