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英雄の証明のHKのレビュー・感想・評価

英雄の証明(2021年製作の映画)
3.4
昨年ハマッて次々に観たイランのアスガー・ファルハディ監督の最新作(日本は昨年春公開)を鑑賞。これで現存する長編全てを観たことになります。
本作も同年のアカデミー国際長編映画賞(以前の外国語映画賞)のイラン代表だし、カンヌではパルム・ドールを争い(受賞は『チタン』)、結果的にグランプリを獲ってます。
今さらですが、もう撮る作品すべて毎回多数の賞を受賞していますね。

今回の主人公は借金のため刑務所に服役中。でも休暇中にお金を拾い、それを借金の返済に充てず持ち主に返したことから、その善行が評判となり一躍ヒーローに。ところが・・・
という話ですが、まず借金が返せないと投獄されたり、服役中に休暇を取って家に帰れたりというイランの法律にビックリ。
でも国や法律は違えど、人間のやることや考えることは似たり寄ったりです。

しかし、今回はこれまでにも増して気まずさといたたまれなさ、そして主に主人公の態度へのイライラに始終さいなまされ、私の場合その苦痛が面白さより勝ってしまいました。
だってこの主人公、話は盛るし、ヘンな嘘つくし、怒ってんだか笑ってんだか中途半端な表情だし、自業自得とも言えるぞと同情心が湧きません。
あの金貸し親子の怒りも尋常じゃなく、主人公は悪気は無いにせよ、これまでもよっぽどマズイ事ばかりしてきたんだろうと疑いたくなります。

金貸しの娘役サリナ・ファルハディは監督の実の娘で、『美しい都市』や『別離』のときよりずいぶん美人に成長していましたが、ニコリともせず主人公を心から憎んでそうな冷たい目がコワイコワイ。
ファルハディ作品には美人がよく登場しますが最後まで笑わないことも多く、笑顔は素晴らしいだろうにもったいないと思うことが多々ありますね。

そして、『ある過去の行方』や『誰もがそれを知っている』ではメールが事態を悪くする道具として描かれていましたが、今回はSNSがその役割を増幅した形で描かれます。
誰が一番悪いのかを考えてみても、完全な悪人も善人も特定できず、とにかく全てが悪い方向に働いて最悪の展開を生んでしまったというか・・・
みんなが不幸になる仕組みを見ているようで、いたたまれません。
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