クリンクル

レッド・ロケットのクリンクルのレビュー・感想・評価

レッド・ロケット(2021年製作の映画)
5.0
『タンジェリン』はめちゃくちゃ好きな映画だった
では『フロリダ・プロジェクト』はどうだったか、たしかに滅茶苦茶良い映画ではあったけれど前作の持っていた輝きは失われたように思えてしまった
『タンジェリン』を観て監督ショーン・ベイカーの良さは「道徳的な視点を超えたオープンさ」だと勝手に思っていたので『フロリダ・プロジェクト』の優等生さ・道徳的な正しさ・アパートの管理人であるウィレム・デフォーと完全に同化して観る以外にはない観客の視点固定化はよくある良いを撮る映画監督になってしまったように見えてちょっとガッカリした

しかし、本作『レッド・ロケット』で自分が感じていた監督の良さは勘違いではなかったことがわかった
登場人物はクズだらけ、とりわけ主人公マイキーはとびきりクズだけど映画では決してジャッジしていない
こいつらが投票するのはおそらく監督とは反対の候補なんだろうけど、そのことで突き放したり、寄り添ったりもしない
こう書くとノンポリ、日和見、冷笑的なようにも読めてしまうけれど作品は決してそうなってないのがショーン・ベイカー作品が特別な魔法のような映画になっている所以だと思う
観客含め全ての人間がマイキーほどではないにしろ、いくらかクズでしょうもないということにこれほどフラットに温かく見つめた作品は他にないんじゃないかな?

自分の人生ベスト映画の『レイジング・ブル』同様に自分が何者であるか知る。いや知れたのか?な幕切れもすごい好み