岩嵜修平

春原さんのうたの岩嵜修平のレビュー・感想・評価

春原さんのうた(2021年製作の映画)
3.8
一首の短歌から、どれだけの物語を紡ぐのだ杉田監督は。なるほど、主演の荒木知佳さんが製作のきっかけと聴いて、細部にわたるエピソードの充実と、人物描写の変なリアリティに納得感があったし、そこに生きる(生きない)人たちの、意図的に映されない感情や生き様は、逆に残った。

作中で描かれる数々の出会いは偶然に行われ、誰しもが、その出会いを通じて何かを与え合っていく。映画においては当たり前に描かれる、そうした何かを与え合う偶然の出会いが自分には存在しないことに気づく。極めて淡々と、日常を切り取ったように見える世界が、自分の居ないパラレルな現実であった。

杉田監督作品は『ひとつの歌』も『ひかりの歌』も好きだが、どれも土地を意図的に見せて(本作では聖蹟桜ヶ丘や小竹向原や富士吉田など)、観客が、身近な現実に重ねて観られるようにしているからこそ、唐突な非日常に驚かされる。これが日本に住む人だけでなく、世界からも評価されるのは凄いこと。

過去作について調べてみたら、登場人物が『ひかりの歌』の雪子と幸子、『ひとつの歌』の剛(同じく金子岳憲さんが演じる)と妙子など重複する名前の人物が何人か居ることに気づいた。杉田監督の世界は続く。荒木さんや金子さん以外にも能島瑞穂さんや名児耶ゆりさん、深澤しほさんら小劇場俳優大活躍!
岩嵜修平

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