あんがすざろっく

流浪の月のあんがすざろっくのネタバレレビュー・内容・結末

流浪の月(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

取り付く島がないな。

こういった事件は、誰もが興味を持つもの。
被害者(少女)と加害者(大人)の構図がはっきりしているから、全ての悪は加害者に被せられる。
社会的な良識で考えれば、当然のことだ。

加害者が罰せられることで、そうなって当然だ、と、自らの良心と道徳観を保つこともできる。


僕、時々モヤモヤするニュースがあるんです。
本作で描かれたような被害者と加害者の構図が当てはまる事件。
新聞もテレビも、良識に沿った前提で大々的にニュースを報じる。
だけど、事件が無事に解決し、必ずしも加害者に全ての非がないことが判明した時。
ニュースは突然口を閉ざしたように、そのニュースに触れなくなります。
僕はそこに違和感を感じるんです。喉に骨が刺さったままの感じ。

決して加害者に肩入れしている訳ではないし、こんな事件があると、やり切れない気持ちにもなります。
被害に遭われた方も、これ以上は触れられたくないはずです。

だけどそこに行き着くまでのマスコミの過剰な報じ方。ニュースを鵜呑みにしてはいけないな、と自分に戒めたくもなります。



映画で描かれたような当事者同士にしか分からない繋がりもあって、人には言えない秘密が、もっと深層にあることもあります。
相手のことを大切に思っているからこそ、嫌われたくない、傷つきたくないから、絶対に知られたくない秘密。



松坂桃李さんの、今にも消えてしまいそうな存在感。
広瀬すずさんの、瞬間で人を立ち入らせなくなるような作り笑顔。
少ない出番ながらも、多部未華子さんの無垢さも、本作の救いになっていたと思います。

個人的に、そのイメージを完全に打ち崩した横浜流星さんが、僕の中では一番の収穫。
彼が最初に登場するシーン、枝豆の食べ方一つで、彼の人間性が出てしまっている。
きっと彼は今まで、ずっとこうやって生きてきたんだなぁというのが一瞬で推察できるんです。
監督の演出であるとは言え、最後までしっかりと役を体現していた横浜さんは凄い。

若手俳優のキャリアをグンと引き上げる李監督の演出と選択眼は、映画ファンからも、一緒に働くスタッフやキャストからも、絶対の信頼を得ているのでしょうね。


作中でとても印象に残っている会話があります。
「私のこと好きになってくれて、いっぱい感謝してるよ」
「誰が感謝して欲しいって言った‼️⁉️」

自分と同じ気持ちを共有するのは、簡単なことではありません。
人間って、やっぱり相手と分かり合うのは難しい。
だからこそ、同じ空間、同じ気持ちを共有できた二人は、二人にしか理解出来ない世界に戻ってしまったんだと思います。


あの二人でなければ、分からない歳月。きっとこれから先も、あの二人でなければ、生きていけないのだと思います。
世間に知られてしまえば、また二人は自分達の存在を消さないと生きていけないでしょう。
せめて、自分達を責めないように生きて欲しい。
誰からも責められる理由なんてないはずなんですから。
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