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私ときどきレッサーパンダのRenのレビュー・感想・評価

私ときどきレッサーパンダ(2022年製作の映画)
4.5
個人的年間ベスト最有力候補。ピクサー映画史上、思春期映画史上最高傑作の一つ。ピクサー新世代の幕開け。劇場公開されないことがとことん悔やまれる....!

血縁の呪いを描くディズニー作品の中でも、日常の一コマ一コマのリアリティが群を抜いている。「忘れたい/隠したい黒歴史」「推しを推す生活」、思春期の解像度が素晴らしく、思い当たる節がある人は多い気がした。共感性羞恥の方はぜひ悶え死んでください。丸っこいカワイイキャラが日常の機微のリアリティで殴りかかってくる感じがまるで『あたしンち』。
そしてディズニーのアニメ作品で、Backstreet Boysみたいなヒップポップグループを追っかける主人公が見られるとは。ティザーでもBackstreet Boysの代表曲『Larger Than Life』が使われた。

レッサーパンダ巨大化というぶっ飛んだ設定が、「自分らしさの主張」「ストレスの解放」「文字通り体の変化・成長」など何重ものメタファーとして機能し続ける100分。それだけに軸が散漫なのでは?という意見も分からないではないけど、ティーンエイジものとしての効果は絶大。あと、ここまで生理に言及したディズニーアニメーションは史上初だ。

あなたのこんなところが好き、でもこんなところは許せない、の距離感の描き方が終始絶妙だった。繋がりの強さという意味では同じでも、家族(血縁)と親友(絆)でその良し悪しが180°変わる、中盤までのこの対比が鮮やか。
終盤の、なりたい自分の誇示VS他人を抑圧しようとする強靭な力 の対立は、視覚的な迫力と恐怖と可愛らしさとなんだこれ感が良い塩梅で混ざり合っていて気持ち良い....。
自分の好きなこと・やりたいことを表に出すことは大切なことである一方で、「そうは言っても....」の要素がかなり大きい問題提起であって、そのためにちゃんと複数通りのゴールを用意してあったのもポイントだと思った。本当の自分を出していこう!という押し付け一辺倒の物語になりすぎていないことを象徴するのが、メイのラストの台詞だ。

ピクサーは元来、クリエイターの超パーソナルな(でもパッケージが上手いので大衆向けに見える)物語を延々と作り続けているスタジオで、今回に関しては当の発案者が新進気鋭の中国系女性監督だったということなので、ポリコレ配慮乙といったコメントはフル無視したい。
なぜここにこういう人種/ジェンダー/境遇の人物を配置したのか?と考えてしまうこと自体がナンセンスになればいい。たまたまそうだっただけ。
世界トップレベルのクリエイターが集うピクサースタジオが、『となりのトトロ』を始めとするジブリ作品や『セーラームーン』といった日本のアニメーション、ドリームワークス作品など多方面へ敬意を払いながらケレン味MAXで作り上げた『ブックスマート ~』(こちらはディズニーではないけど青春映画の大傑作なので超おすすめ!)といった趣だった。
古くからのピクサーファンがブーブー言うのも分かるけど、同じく古くからのピクサーファンである自分は大好きだった。

今作、近年のピクサー作品に希薄だった「グッズが欲しくなるアイコニックなキャラクター」が真ん中にいるのは圧倒的な強みだと思う。レッサーパンダ可愛い。このコのぬいぐるみキーホルダーとか欲しい。総じて、手描きの2Dアニメーションのようなタッチを3Dに意味ある形で落とし込んだ発明が素晴らしい。


《第95回アカデミー賞戦歴》
ノミネート
⭐︎長編アニメ賞

【追記】家族・血縁のしがらみと向き合い解決策を模索するお話を描くには、まず地獄みたいな家族そのものを描く必要があるので、最終のメッセージに行き着く前に無理な人は振り落とされてしまう....ということを低評価側の方のレビューで学ぶなどした。

【追追記】最近のディズニー/ピクサーは説教くさいから初期のエンタメ感がほしいという意見を『ソウルフル・ワールド』辺りから特に散見するようになった気がします。メッセージ性が前景化しただけでエンタメとしての出力が落ちた訳では無いし、家族・人生観の話なら『トイ・ストーリー』『ファインディング・ニモ』の頃から十分されていることに気がついたほうがいいかも....!
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