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LAMB/ラムのtsubasaのレビュー・感想・評価

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.6
話題作を次々と世に送り出す気鋭の製作・配給会社「A24」が北米配給権を獲得し、カンヌ国際映画祭で上映されるやいなや観客を騒然とさせた賛否両論の作品。

主人公の名前がマリアで羊がモチーフとなれば、キリスト教の影響が色濃い寓話的なストーリーかと思いきや、実はギリシャ神話がモチーフというミスリードで観客を混乱させてくるし、淡々としていながらも目が離せないストーリー構成。

一見解釈の難しい場面があっても、その後にその理由が語られ説明されるという構成上の傾向がある為、不条理ではあるが、いわゆる難解な作品ではないと感じる。

アダの出生、親である獣人はギリシャ神話に登場する山羊の角を持つ、半人半獣の精霊であり怪物の「サテュロス」をモチーフにしていると思われる。
サテュロスの名は、古代ギリシア語の「種をまく者」という意味もあり、”男性器の象徴”であり”欲情の塊”という説もある。確かにこの「LAMB ラム」という作品には、通低音のように”セックス”がモチーフとして描かれ続ける。

そんな1つにマリアが猛々しい雄羊たちの夢を観るシーンがある。その雄羊の大きな角は、古代エジプトでは男性の生殖力を象徴しているらしいが、明らかにギラギラと目を光らせる羊たちには性的な暗喩を感じるし、後半ではマリアとイングヴァル夫婦の濃厚なセックスも描かれる。

そして自分の下半身を一瞬観て、天を仰ぐラストシーン。これは恐らく夫イングヴァルとのセックスにより、彼女が妊娠していることを表現しているのだと思う。最愛のアドは獣人に連れ去られてしまい、夫も失ったマリアだが、自分の子供を妊娠したことで他者の子供への執着から脱却したという、”解放”を表現していると感じた。

シンプルな映画に飽きた人におすすめの作品。
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