幽斎

ガール・イン・ザ・ベースメントの幽斎のレビュー・感想・評価

3.8
アカデミー作品賞ノミニー、Brie Larsonが主演女優賞を獲得した「ルーム」の原作「部屋」映画化。2008年「フリッツル事件」を基に描かれる。AmazonPrimeVideoで鑑賞。

原作者Emma Donoghue、女性作家。ダブリン大学とケンブリッジ大学の博士課程修了のインテリ、小説家デビューすると新人の登竜門ラムダ賞の最終候補に。2010年刊行「部屋」マンブッカー賞の最終候補、優れたドキュメントに送られるロジャースライターズトラストを受賞。日本は2014年「部屋 上・インサイド」「部屋 下・アウトサイド」講談社文庫。320Pのペーパーバックだが、当時は震えて読んだモノだ。

「フリッツル事件」稀に見る残酷な事件だが監禁と近親相姦、惨さのダブルレイアー。42歳の被害者エリーザベト・フリッツルが、24年間に渡り自宅の地下室に閉じ込められ、父のヨーゼフ・フリッツル73歳から肉体的、精神的、性的暴力を受け、何度も強姦されたと訴え発覚。初めにお断りだが、オーストリアの法律では何人殺しても「死刑」は無い。

父親のヨーゼフ・フリッツルは事件を起こす前、24歳の女性を強姦、18ヵ月服役した犯罪歴が有る他、複数の強姦未遂や公然猥褻の被疑者だが、オーストリアの性犯罪は時効が成立すると記録が破棄される。後に養子縁組と里親と言う、事件発覚の手掛かりも法律の不備で見過ごされた。最終的に15年間の仮釈放を認めない終身刑の判決が下るが、日本人の私には到底承服できない。

劇場映画では無く、TVムービー。北米9000万世帯が視聴するペーパービュー局「Lifetime」最大の特徴は主婦層にターゲットを絞って放送、白人以外を主人公にキャスティングしないので、LGBTの潮流に反するがお構いなし。有料なので嫌なら見るな、を徹底。過去にレビューした「ザ・テスト 護身術」「マザーズ 禁断の秘密」「サプライズ 狂気の恋心」「シスターズ 異常な愛情」「ザ・マーダー 連続殺人事件」「キリング・ビューティー あどけない殺人者」「ビューティフル・ネイバー 美しい隣人」好きだな俺(笑)。日本の2時間サスペンスと同じで記憶に残らない作品ばかり。お子様も見るのでエロもグロも無い。だが、実際の事件は嘔吐と吐き気を伴う、とてもリビングで見れるモノでは無い。

事件をタイムラインでトレース。イギリスのタブロイド紙ガーディアンから抜粋。
https://www.theguardian.com/world/2008/apr/28/austria.internationalcrime1
1977年、11歳のエリーザベトに性的虐待を始める
1981年、地下室を違法に改造し始める
1984年、18歳のエリーザベトを地下室に閉じ込める
1986年、エリーザベトが妊娠10週目で流産する
1989年、ケルスティン誕生、2008年まで地下室で過ごす
1990年、シュテファン誕生、2008年まで地下室で過ごす
1992年、リザ誕生、家の外で発見され捨て子として育てられる
1994年、モニカ誕生、ヨーゼフが地下室を拡張する
1996年、双子を出産、1人は3日後に死亡し火葬。アレクサンダーは階上で育てる
2002年、フェリックス誕生、地下室に残された
2008年、重い病気を罹ったケルスティンを病院に連れて行く
病院から匿名の通報が有り、ヨーゼフとエリーザベトを警察に連行。彼女は24年間の監禁を打ち明け事件は発覚する。

性犯罪は必ず連続性が有る。レイプ犯は刑に服しても、また性犯罪を繰り返す。アメリカにはセックス依存症の専門病院が有り、ハリウッド・スターも何人もリハビリに訪れてる。アメリカでは父親が娘をレイプ、妊娠させる事案が極めて多く、度々ニュースで見聞きする。母親は何も知らず娘の無事を祈る様に描かれるが、そんな馬鹿な話は無い。妻も夫の暴力に沈黙するしかなかった。

地下室は比較的清潔感が保たれてる様子だが、事件のフッテージを見ると実にお粗末な衛生環境。私は日焼けが嫌いだが(笑)、人は日の光に当たらないとビタミンDが欠乏し貧血を引き起こし免疫力も低下する。医療の力で大抵は解決出来るが、近親相姦で生まれた子供は遺伝情報が正しく伝わらず、細菌やウイルスへの抵抗力が弱い。一般論だが寿命が短いと言うエビデンスも有る。

お茶の間向けムービーなので、陰惨なシーンは無い。父親のレイプはソレっぽい雰囲気だけ。何なら親子の美しい愛情劇を入れる辺りも、女性監督らしい点が鼻に突く。Elisabeth Rohm監督はドイツ人だが、レビュー済「スキャンダル」出演してる女優で、本作が監督デビュー作。監禁モノの生々しさも無く、被害者が存命で有る事から、お花畑的な恋愛話まで付け加えリアル感は皆無。私は読んだ事無いけど少女漫画って、こんな感じかなと思ったり。評価は映画の出来、と言うよりもサラ役Stefanie Scott 25歳の熱演、心の底から拍手を送りたい。

原作小説を先に読んだので「ルーム」は観て無い。予告編を見て、どう考えてもリアリティが無く、事件から乖離した絵空事の感動ドラマに仕立てた事が許せなかった。一方で何でもリアルに描けば良いと言うモノで無い事も承知してる。事件後、あれだけの子供を抱えて父親は終身刑で自宅は差し押さえ。どんな明るい未来が有るのだろうか?。

事後のエリーザベトは好奇の目を防ぐ為、支援団体の手で湖畔の家処か要塞の様な家に住んでる。其処で知り合ったボディガードと交際し一緒に暮らしてると、ロンドンタイムズは伝えてる。生還したお子さんも含め、彼らに幸あれと祈る事しか出来ない。

アメリカの監禁事件の被害者の生存率「3%」。最凶の親ガチャ、ある意味奇跡の物語。
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