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愛なのにのRenのレビュー・感想・評価

愛なのに(2021年製作の映画)
4.0
一貫して「好き」を描いてきた今泉氏とピンク映画出身の城定氏の、これ以上ないマリアージュ。上映館は少ないけど(なぜ!)かなり面白いのでおすすめ!マスク越しの笑い声が随所で聞こえる久々の映画体験。

揃いも揃ってメンドクサイ男女の群像劇を通して、好意を持つ/持たれる、告白する/される、不倫した/された人々の心情をコメディとして描いていく。そしてその中心には巻き込まれ独身男性がいるという十八番の構図(『mellow』『街の上で』など)。
書店員に恋する女子高生とか、結婚間近で不倫する旦那とか、ちょっと書き割り的すぎない?とも思ったりはしたけど、逆を言うとそういう人達の機微が細やかにはっきり可視化される内容だったので、最後まで興味を持って観られた。それによって、単なるキャラクターに甘んじていない、生きた人間がそこにいる。

恋愛を語る上で絶対に避けて通れない性への言及とベッドシーンの描写の説得力に、城定監督が撮る意味が詰まっている。監督の過去作は『性の劇薬』『アルプススタンドのはしの方』しか観られておらず、前者は正直ハマれなかったのですが、やはり人間の本質(性)に肉薄していた人だけあって性生活の解像度が高く感心。

全員終始大真面目なのに、全台詞がボケに聞こえてしまう上質なコメディ。好きという感情は真っ直ぐで嘘が吐けないからこそ厄介で愛おしい。神父や常連のおじいちゃんや逆上がり親子が、メイン4人(〜6人)の凸凹な恋愛模様をそっと下支えしていくような演出も嫌味にならず洒落ていました。
亮介が一世一代のクズ野郎で最高。中島歩はこの方向の性格俳優の地位を勝ち取った感がある。

今泉監督は究極「どんな好きも受け入れたい」という作品ばかり撮っていて(そんな印象があって)、今作でついにそれがはっきり台詞で言われる瞬間があった。終盤、多田が最も声を荒げるあのシーン。自分の作家性にとことん自覚的な人なのだなぁと再確認でき嬉しかった。
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