とても好き。
ウェスアンダーソン映画ではよく見る入れ子構造だけど、今作は特に複雑な印象。
前作における雑誌のように、今作は劇作家が台本を完成させる過程と並行してその演劇が展開されるので、作家と一緒に作品を作っている気分にもなれるというか、監督の持ち味のヘンテコ具合に正当性が出て、ヘンテコなのが妙にリアルという状態になる。
ウェスアンダーソンの箱庭的世界観は、そういう意味で入れ子構造と相性がいいなと思う。
劇中では主人公の妻は死んでしまい、傷を負っている。
劇中劇の枠を超えて感情が分からなくなってしまった主人公が、劇場の外で妻役の女優と出会うのシーンでは、虚構ではない現実味に溢れていた。
劇中ではもう死んでしまった妻。でも今は生きている妻としての言葉。現実と虚構が曖昧になってしまったからこそ、その妻役の女優の言葉が主人公に対して答えを与える。
この映画の構造や監督のスタイルが、物語として一番活きているようなとても好きなシーンだった。
個人的に大好きな初期の作品”天才マックスの世界”でマックスを演じたジェイソン・シュワルツマンが、今回天才少年の父親役として出ていたり、監督の中で天才少年像や根本にあるテーマ性が変わってないところも好き。
今作の主人公ひいては監督自身にとって、心の傷を癒し現実を生きることは(目覚めたければ)、虚構=演じること、映画を作ること(眠れ)なのかなとも思った。
”時が傷を癒す”と。違うせいぜい絆創膏程度だ。
私たちがどんな人間かわかった。致命傷を負いながら傷の深さを見せない。
時々地球外の方がくつろげるって思う。すごい僕もだ。
