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ちょっと思い出しただけのRenのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.0
2022年タイトル大賞。これを超えるものは今後10ヶ月半出てこないので大丈夫。というかタイトルで表していることが全てな映画だった。観た事ある松居大悟監督作の中で一番好き。普通の恋愛だってドラマになる。

当然のように昨年の『花束みたいな恋をした』『ボクたちはみんな大人になれなかった』と同系色の作品なのだけど、良い意味でさっぱりした仕上がりになっているのが今作最大の特徴だと思った。
キラキラした過去への憧れや後悔、懐古主義で固められた作品になりすぎず、今の生活を肯定する(見守る、と言っても良いかもしれません)視点がかなり濃い。目まぐるしく変わる世の中で、一瞬立ち止まって、文字通り過去を「ちょっと思い出しただけ」。
数年間あれば人間関係も境遇も髪型も変わる。誕生日に誰とどこでケーキを食べるかもまるで変わってしまう。

過去6年間を各年の7月26日だけで振り返っていくので、かなり情報の空白が多い作品ではある。どうやって二人はここまで距離を縮めていったの?なぜ輝生は怪我をしたの?でも過去のことをフラッシュバック的に回想するときってこんな感じで、何もかもを思い出すわけじゃない。
輝生も葉も彼らなりに優しく良い人なのだけど、たぶん結構メンドクサイ人間。それだけに、2人だけで一緒に居るシーンは甘さも多幸感もあるけど見てられない部分もわりと多かった。「世界に2人だけみたいだね」的な台詞は全く嘘じゃなく、この辺りの描き方は流石『私たちのハァハァ』『くれなずめ』の松居監督といった感じです。視野がキューっと狭くなる感じ。
花火や海月に代表される、儚くて美しいものが印象的に描かれていたのも特徴のひとつ。恋愛も得てしてそういうもの。

尾崎世界観、ニューヨーク屋敷裕政など非俳優陣の演技もノイズにならず、ちゃんと溶け込んでいた。池松壮亮と國村隼と成田凌と河合優実が乾杯する世界。

クリープハイプがジム・ジャームッシュにインスパイアされ書いた楽曲『ナイトオンザプラネット』を元に松居大悟監督が池松壮亮と伊藤沙莉主演で映画化。多くの映画ファンが「私のための作品!」と勘違いしてしまう。松居監督はファンのアンテナに引っかかるフックを作るのが上手い。
時系列が変化する度にカチャッと時計のカットが挿入される辺りはモロに『ナイト・オン・ザ・プラネット』へのオマージュ。観ていなくても全く問題無く楽しめるけど、知っているとより楽しめる。
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