諸星だりあ

オッペンハイマーの諸星だりあのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
古典アカデミー賞作品の「地上より永遠に」に通ずる、太平洋戦争を米国側から描いた映画として教養を得る意識で鑑賞した。

原爆の父・J・ロバート・オッペンハイマーの「公職」を描いた歴史物、オスカーを獲った功績も相まって話題になっている。
核兵器を「威力の大きい爆弾」程度の認識で描かれる事の多い外画がここまで実直にその脅威を表現し、また映画自体が評価されていることは賞賛したいと思う。
被爆国としての視点だと実験成功の場面が特に苦々しく映ったものだが、今のように実態が映像で残ったり伝わったりしない時代であるがゆえに幻想に苦しめられるその後の描写には「使った側」の傷を感じることが出来て、意義のあるものだと思った。

ダンケルクよりはいくらかマシだったが今作も時系列が分かりづらい。聴聞会と裁判?が絡み合うのは長尺を保たせる手法でもあるのだろうが史実としてこの先にオッペンハイマーの勝利は無い事が分かっているだけに「もっとコンパクトにしろよ」という気分にはなった。
戦争は外交手段の一つ、とは言われるが結局戦勝国にも消えぬ爪痕が残るもの。それをぼかしていない点でアカデミーに相応しい反戦映画だったと思う、見応えはあり時代に翻弄される主人公を取り巻く主役級キャストの名演は見事だった。

だが、結論としては国家は「正義の奴隷」として過ちを正せないのだな、と80年後の世界を見て物悲しくなってしまう…そんな作品でもあった。技術や能力が意思に反して戦争に利用されてしまう、これも日本のアニメが40年前から描いているし、軍拡競争は破滅の道だと、60年前の特撮ドラマが伝えている。

どこまで忠実か知る由もないが、映画のメッセージが人類の進歩に繋がれば良いな、という願いを込めて「ただの記録」だと伝えていきたい、そんな映画であった。


「人類は、今日という日を忘れない」
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