群青

オッペンハイマーの群青のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.3
2024年劇場鑑賞4作目。
IMAXレーザーで。


今作を観る前、例えばアクション映画で敵役になりやすいロシアやアラブ系の方々はそういう作品を観るときどういう感覚になるのだろうか。怒るのか。納得するのか。
今作には直接関係ないけどそういうことを考えた。


大量殺戮兵器を作った人の伝記映画。


被害を受けた日本側から今作を観るには客観的には観れないのではないかとすら思った。世の中にたくさん人を殺す武器があって、それで今もなおウクライナやパレスチナで人が死んでいる。ただ、今作で描いているのはたった二発。たった二発の爆弾で何十万人もの人が死んだ。
ある者は欠片も残らず。
ある者はひどい火傷で。
ある物は飛び散ったガラスや破片が突き刺さって。
ある者は放射能で。

自分が使わねば相手に使われるかもしれない。
これで戦争が終わらせられるかもしれない。
そういう焦りを大義名分に、好奇心とも言えるような無邪気さで新しい技術を作ったつもりだった。
それがどうだろうか。
作った本人は成功を感じた直後、果たして絶望した。
成功の拍手と足音が彼を絶望させた。
個人的にはそれ見たことか。と彼をなじるような気持ちになった。

成功した後も淡々と、どこに落とす?何人死ぬ?それに戦略的優位性は?民間の人も巻き込まれる?とか話す。オッペンハイマーはやんわりとどうにかできないからと言うが結果、広島と長崎に落とされる。

トリニティ計画のお祝いシーンと、このどこに落とす?シーンはハッキリと怒りが湧いた。俺たちは敵だったのか?敵であってもここまでしてもいいものだったのか?正義という建前があればなんでも許されるのか?


しかしドラマはここで終わらない。
後半はオッペンハイマーがストロース博士に騙され、登りきった名誉の椅子からどんどん落ちていく話になっていった。
要は赤狩りなんだけど、今作はそっちの方に重きがないか?と思った。結構尺を取るし、それまで時系列をシャッフルさせながら彼がどう過ちを犯しているかを原爆以外についてもそれこそ犯人の足跡のように残している。

特に女性関係なんかは普通の人が見てもいやいやあんたが悪くね?としか思えないだらしなさ。

近年、インティマシー・コーディネーターという仕事がスポットに当てられるほど女性の濡れ場的なシーンはとても配慮される時代になったので、今作のそれは完全に不意打ちレベルでなんならちょっと引いてしまった。
だいぶ前の自分ならうわー!フローレンス・ピュー、エッチすぎる!ともなったかもしれないがこれはちょっとないかな…
彼女は了承したんだろうかと心配になるレベルのド直球の描写だった。まあ多分、心配しなくても了承したんだろう。勝手に心配しても意味ないか。
これもまたオッペンハイマーという人の暗部を晒すためなのかもしれないが、それならこっちは婉曲的な表現にしてそれこそ原爆をハッキリ描写すれば良かったのでは?


とにかく、原爆を通して人は過ちを犯すものだ、そして後悔はいつもしてしまった後にやってくる。だからやってしまう前に想像、思いを馳せないといけない、そういう作品だと思った。

監督らしく題材はこれ以上ないくらい重いのに映画的な面白さはしっかりあるのがすごい。
久しぶりに3時間があっという間に感じた。濃密な体験だったのだろう。

アメリカでも大ヒット、ファンが同時期に上映していたバービーの面白さとも重ねてバーベンハイマーというミームを作ってしまうのも頷ける。

でも、結局のところそれがアメリカ人が今作に対してどこまで原爆に思いを馳せることができたのかの証左になってしまった。

事実、4月ごろにはある議員がガザに原爆を落とせば戦争は終わると言った。
ついこの間も別の議員がイスラエルへの武器供与継続の是非で原爆を引き合いに出した。

ウクライナはロシアが、パレスチナはイスラエルが。
それぞれ強者の側から一刻も早く振り上げた手を下ろしてもらわないといけないと思うんだけど。

ノーラン監督、そんなもんみたいですよ?
どこまで人類は愚かになれるんでしょうね?
群青

群青