群青

ゴジラ-1.0の群青のレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.9
2023年劇場鑑賞11作目。


米アカデミー賞の視覚効果賞にノミネートされた。
ゴジラという作品で本場アカデミー賞に食い込むことが出来るとは夢にも思わなかった。

日本のCGはハリウッドのそれから何年も遅れをとっていただけに、この賞にノミネートされ、しかもそれが世界で最も知名度のある日本のIPの一つであることがとても素晴らしく誇らしい。

これには東宝のお偉いさんが会見で言っていたように、アメリカでの俳優のストライキの影響で同時期公開の話題作が少なかったこと、昨今話題になっているVFXの劣悪な労働環境、さらにはストライキの項目にも含まれていた俳優のCG利用についても無関係ではないと思う。
そして東宝がアメリカでも法人を立ち上げ今作の配給やプロモーションを直接行なっていたのもプラスに働いているであろう。

要は色々な要因が重なった運によるところもあるが、一番は作品の強度がこれまでの所謂特撮モノからは一線を画していたからだろう。出来がしっかりしていた。

良くも悪くもシン・ゴジラがその起爆剤になっているのは間違いない。元を辿ればそのシン・ゴジラも2014年のギャレス版ゴジラの影響からスタートしたのだが。


振り返るとシン・ゴジラのバランスというのはとても異質で特殊だった。

人間ドラマを廃し、ゴジラという設定をリセットし、特撮愛と庵野監督自らのカラーを全面に出しつつ当時の社会性を反映させたシン・ゴジラは初代以来の強烈な時代性があった。あれをもう一回というのはなかなか出来ない。というかまずムリだろう。

その無理難題を日本でVFXを、とやってきた山崎貴監督が受けるのは必然だと言える。監督のフィルモグラフィから考えると映画ファンからしたら賭けじゃね?とも思われていたと思うが笑
個人的にもああああ大丈夫かあああ⁉︎でも次やるとしたらこの人しかいないかあああという塩梅だった笑
というかそれは監督自身が一番感じていた。何しろシン・ゴジラの興行収入躍進の際、次に撮る人は大変ですねというコメントしていたから笑


じゃあ次はどうするかというと、シン・ゴジラのようなシリアスさは引き継ぎつつ、監督の得意分野である戦後という時代、船・戦艦・海上戦を軸にしたのは英断だった。
シン・ゴジラとはうってかわって積極的に取り入れた人間ドラマは、(逃亡したのもあるが)戦争に生き残ってしまいサバイバーズ・ギルトやPTSDに苛まれながら自分の人生を生き直すために、戦争の亡霊ともいえるゴジラと対峙していくというもの。
背景になりがちな人間ドラマを上手くゴジラに盛り込んだと思う。
ここら辺の戦争帰還兵の話は日本よりアメリカの方が共感しやすいのもポイントだろう。

とはいっても本国日本の観客からするといささか説明チックでいわゆる演技がかっていると感じるのは仕方がないかな…自分も少しは感じたが過剰…とまではいかなかったけど。なんなら上手いことやってる方だと思う。ゴジラ愛の補正か?笑


それは主演である神木隆之介と浜辺美波含め俳優の方々が素晴らしい演技をしてくれたから。

吉岡秀隆演じる学者のいかにも学者ーって感じとか、佐々木蔵之介の江戸っ子のような言動、山田裕貴の未熟成、どれも良かった。
ゴジラにはまったく関わらなかったが安藤サクラの冷たいようで実はお節介な隣近所も良かった。

何よりは主演の二人!
二人とも良い意味で昭和っぽい顔立ち!
完全に1947年の人間になってます笑
ゴジラを初めて目撃する観客の役目も担う浜辺美波の顔も良かったし、神木くんの後半からの目が半分以上イッてしまっている鬼気迫る表情は素晴らしかった。


ゴジラのデザインは最初に姿が公開された時から大好きだ。
背鰭の刺々しさはおそらくミレニアムゴジからだろうし、額から首にかけての隆起している肌感とか目の感じはvsシリーズのゴジ。体格のマッシブさは最近のハリウッドのゴジラに近い。
要は全部盛りで人を殺す気マンマンである笑

特に熱線はゴジラの肝であるのだがこの熱線が素晴らしい。まさかの二段ギミック!!(観た人にはわかる笑)
ハリウッドゴジラも参考にしたのだろうが、力が溜まってからの激鉄のようなあの演出はめちゃくちゃカッコよかった。まあ生物か?と聞かれたらおれもアレは無いな…いくらなんでも生物じゃないな…と思ってしまうけどそれ以上にカッコよかったのでよしとする笑
カッコよかったというかもう泣いてしまった。人に話したらドン引かれるんだけど、熱線のシーンで泣きましたよ。多分ゴジラへの畏敬の念ですね、これは笑


劇伴は要所で伊福部昭の使いつつ基本は今作用の劇伴。やはり伊福部昭は素晴らしい。銀座のシーン、泣きましたね。
というか銀座のシーンは、現れて泣く→熱線吐いてまた泣く→それを見た神木くんの慟哭でさらに泣く、と情緒が乱れました笑

一方、今作の劇伴は伊福部昭を使おうとしなかった84ゴジラ とミレニアムに匹敵もしくは上回る素晴らしい劇伴だった。悲壮感がありながら神々しさすら感じられる熱線のシーンと終盤、主人公が戦闘機に乗ってるシーンの曲が良かった。
しかし今作で一番、残念に思ったのも劇伴。

ゴジラ上陸と終盤のある作戦のシーンで伊福部昭のテーマが使われるのだがゴジラの旋律の後にそれぞれのシーンでモスラとキングコングのライトモチーフが使われる。
それは…モスラのじゃん…キングコングのじゃん…出てこないじゃん…とかなりノイズに。
キングコングのライトモチーフは名作vsデストロイアの名EDでも使われたんだけどあれはそれまでの作品を振り返る意図もあるから納得できるんだけどさ…


VFXはノミネートも納得の出来。ハリウッドに遠く及ばない日本のVFXでここまですごいのができるんだ、と感心して観てた。というかこんなにすごいの観せてもらっていいんすか⁉︎あざっす!という感じだった笑
中でも水の表現に文句を言っている人はいないのではないか。
シン・ゴジラでやってないところで評価されるのは監督も嬉しいでしょうな。

このクオリティは監督本人のナレーションのVFXメイキングでも言及していたように、監督自身が直接VFX会社でチェックできたのが一番の要因。風通しが良かった。
これもまたハリウッドでは絶対にできないことなので、まさに工夫の勝利。
まあこれが成功したからといって次も同じように、とならないようにしてほしい。ちゃんと…予算を…人を…金を…かけるんだ…
ニホンノワルイトコロダゾ笑


ストーリーは人物説明や各登場人物の役割や背景をテンポよく描いてあまり無駄がない。
ゴジラ打倒の作戦も分かりやすく時代に即している。あの時代でできることの最大限という納得感があった。
逆に言えばそれまでは奇をてらっていないため、既視感や後の展開がわかりやすいのが少しだけ残念かな。あと一つしっかりした斬新さがあれば違ったかも。


時代性は前作が3.11なら今作はコロナ。

政府は命を粗末にしすぎた。
誰かが引かなきゃいけない貧乏くじ。
政府はあてにならないから現場でなんとかするしかない。

あああ…どんだけ今が腐ってんのかわかるな…なんとかならんかな…本当に…


何はともあれシン・ゴジラの次の作品としての役目は完全にやりきったしなんならそのハードルはしっかり超えてきたから素晴らしい。


これで本当にアカデミー賞を取ってしまったらどうなるだろう。
取るぞ!と思うと取れなかった時のショックがでかいからそう思わないようにしてるんだけど…取ってくれたら…本当に嬉しい。

ゴジラがアカデミー賞を取…ってくれたらいいなあ…取ったら泣いちゃうかも…
群青

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