カツマ

ノースマン 導かれし復讐者のカツマのレビュー・感想・評価

4.2
生きる目的は誰のために。燃え盛る業火に焼かれ、男は彷徨うように血を求め続ける。復讐のために生き、惨たらしくも死んでいく。それこそが彼の運命、のはずだった。そんな彼の前に現れた愛と温もり、そして護るべきもの。振り上げられたその剣はいつしか未来へ向けられていく。哀しみの連鎖を断ち切る、ただそれだけのために。

今作は『ライトハウス』『ウィッチ』を撮った奇才ロバート・エガースによる恐らく初の大作映画である。物語はヴァイキングの王子アムレートの伝説を題材としており、監督自身がアイスランドを訪問した際の出会いがその霊感を後押ししたようだ。主演にはヴァイキングを演じることを兼ねてから熱望していたというアレクサンダー・スカルスガルド。日本での劇場公開は本国よりかなり遅れるも、東京国際映画祭で先行上映された後に無事に公開。監督の世界観をそのまま神話アクションへと落とし込んだため、分かりやすいストーリーながらカルト臭も感じさせる作品だ。

〜あらすじ〜

紀元895年。国王オーヴァンディルは戦に勝利し、国へと帰還した。息子のアムレートはまだ幼い歳の頃であったが、オーヴァンディルは自身の身体の衰えと戦での傷跡を理由に、早くも息子に王位を譲ろうと考えていた。そこでオーヴァンディルは宮廷道化師のヘイミルを立ち合わせ、アムレートに王位継承の儀式を授けることに。父から息子へと魂は受け継がれ、アムレートは自身の運命を悟った。
その直後、儀式を終えたオーヴァンディルは弟のフィヨルニルの謀反に遭い、無惨にも惨殺されてしまう。物陰に潜めていたアムレートも父に続いて殺されそうになるも、何とか追っ手の手を逃れ、国を脱出することに成功する。アムレートが一人誓ったのは父の仇を討つこと、そして、母を取り戻すこと。船を漕ぎ出しながら、アムレートは復讐を誓った。
長い時が経ち、血で血を洗う戦場を経て、アムレートはヴァイキングの戦士となった。その道中、彼は父の仇、フィヨルニルの居所を偶然にも耳にする。それは復讐の炎が再び激しく燃え上がる時であった・・。

〜見所と感想〜

ロバート・エガースは元々『ウィッチ』というダークなホラー映画で長編映画のキャリアをスタートさせているし、続く『ライトハウス』もカルト臭満点のスリラーである。それだけに監督の個性としての灰汁の強さは大河アクションというジャンルでも遺憾無く発揮され、容赦ないグロさと壮絶な時代描写として表出している。そういった世界観にさほど意外性は感じなかったが、恐らくラストのアクションシーンのカッコよさは監督の新たな境地のはず。泥臭さはリアルにヴァイキング同士のバトルを彷彿とさせたし、復讐劇の大団円を飾るに相応しい迫力を備えていたと思う。

キャストではやはり主演のアレクサンダー・スカルスガルドが圧巻。屈強なヴァイキングそのままの風貌で、復讐の鬼という設定に完璧に応えており、文句なしのベストアクトだ。共演のアニャ・テイラー=ジョイは『ウィッチ』以来の監督とのタッグ。同じくウィレム・デフォーも『ライトハウス』に続く監督作品となる。王妃役のニコール・キッドマンは後半にようやくインパクトを放つも、名優の使い所としてはもう少し見せ場は欲しかった気も。そして、フィヨルニル役のクレス・バングって誰だろう?と思いきや、あの『ザ・スクエア』の主演の俳優さんで、世界観にハマりまくったキャスティング。スカルスガルドとのバトルシーンでの体を張った熱演も素晴らしかった。

この映画はいわゆる職業監督が撮ったとしたら平凡なハリウッド大作で終わっていたはずだ。それが監督の個性でここまで異質な雰囲気を纏う作品へと変容した。ワンポイントでビョークが登場した時にはさすがにギョッとしたし、ウィレム・デフォーの顔芸を使わせたら、ロバート・エガースの右に出る者はいないだろう。劇場ではイマイチヒットしなかったことも納得。内容的にどう考えても大衆的ではないからだ。それでもこの監督がメジャーな方向に振り切れなかったことは個人的にはとても嬉しい。まだまだ彼の作る映画はカルトだ。これからももっと我々に謎めいた恐怖とスリルを提供してほしいと切に願う。

〜あとがき〜

本当は昨年の東京国際映画祭での上映時から観たかった作品なのですが、ちょうど娘が産まれるタイミングだったため劇場での鑑賞は断念。それでも早めの配信は有り難かったです。ロバート・エガース作品は個人的にハマりやすいので、今作も楽しく鑑賞することができました。

ヴァイキングの時代となると逆にこのグロ描写こそが真実なのでは?と思える節があるため、表現方法が過剰とは思わなかったですね。むしろ、監督との相性は良かったかな、と思います。次はまたスリラーに戻ってくれることを密かに願いつつ、ロバート・エガースの今後に期待していきたいですね。
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