カツマ

ウーマン・トーキング 私たちの選択のカツマのレビュー・感想・評価

4.5
ずっと夜のようだった。閉鎖的な空間に、悪は堂々と居座り続けた。そんな長い長い悲劇の繰り返し。支配と信仰と抑圧と。それはまるで暴力の歴史、決してフィクションなどではない。そして今、夜明けは近い。何をすべきか、どこへ向かうべきか。女たちの闘いが始まった。一晩にしてはあまりにも長い、未来へと続く選択がそこにはあった。

今作は第95回アカデミー賞にて脚色賞を受賞、作品賞にもノミネートするなど高い評価を受けており、様々な作品に出演してきた女優のサラ・ポーリーを一躍監督として有名にした作品である。ここにあるのは、閉鎖的なキリスト教のコミュニティにあって、あまりにも長い時間、男たちによって隠されてきた恐るべき事件を巡る女たちの一晩の闘争。静かな会話劇が主体であるが、内容は衝撃的。何よりもこれが実話ベースであることがどうしようもなく哀しく重い。傷跡を晒しながら女たちは話し合った。男たちの支配から逃れるために。

〜あらすじ〜

2010年代のとある閉鎖的なキリスト教徒のコミュニティにて。そこでは女たちは長年、男たちに薬をもられ暴行されるということが日常的に行われてきた。だが、男たちはそんな事実はないとそれらの非道を否定してきたが、ついにその事実が明るみに出ることとなる。
それによって女たちは、男たちが警察に連れていかれた二日間の間に、今後のことを話し合う場を設けた。彼女たちには時間がない。だが、投票を行っても『村に残って闘う』『出ていく』が同数となってしまい、ついには代表家族たちによる夜を徹した二択の会議が始まった。その中には暴行されお腹に子を宿したオーナ、夫から暴力を振るわれ続けてきたマリチェらがおり、唯一、対等な立場の男としてオーガストが記録係として参加していた。女たちの脳裏には神からの赦しがチラつきつつも、子供たちのために未来ある選択肢を選び抜こうとするのであった・・。

〜見どころと感想〜

これは100年前の物語ではない。てっきり大昔の話なのかと思いながら見ていると、突然、2010年代というワードが飛び出してくるのはもはやホラーだ。なので、会話劇主体であっても重苦しさと胸糞な雰囲気が永続的に蔓延しており、時折笑うしかない状態になる女たちの会話はあまりにも悲壮。ただ、その会話の中に女たちの強さを覗かせてくれることが本作の素晴らしさであり、また、大切なメッセージでもあると思う。

今作からはオスカーへの俳優賞のノミネートは無かったようだが、それは大きな誤ちであると思った。少なくともジェシー・バックリーとベン・ウィショーはオスカーノミネートに匹敵するほどの名演を見せていたし、そうなるべきだったと思う。他にもルーニー・マーラ、クレア・フォイなど演技力の高いキャストが選ばれており、緊迫した会話劇が彼女たちの演技力の賜物であることが分かる。更にはフランシス・マクドーマンドが意外な役で出演、彼女は製作にも名を連ねており、今作への気合いの入れようが窺える。

また、今作の素晴らしい点として、完全に女目線だけから男たちを語っているわけではない、ということがある。男の模範として、ベン・ウィショー演じるオーガストがいるわけで、男目線から子供たちへの教育の大切さを説いている。ただ、断言したいのは、オーガストを除く男たちは完全に葬らなくてはならない悪そのもの。環境は人を作るということの大切さ、変えなくてはならないことを明確に示しつつ、コミュニティなど関係なく、女と男の在り方について、丁寧に問題提起をしてくれている。正に今の時代に作られなくてはならない映画。今後も多くの人に鑑賞され続け、未来ある子どもたちが大人になるうえで、大切なことを示し続けてほしい作品だった。

〜あとがき〜

決して派手さはないけれど、素晴らしい映画だと思います。映画として表現すべきメッセージがダイレクトに伝わってくる表現方法、選ばれた主題も適切で、俳優たちの演技も見事。それらを支える音楽も静謐さと哀愁を湛えるスイッチを押していて、非常に完成度が高い作品と感じました。

今年のオスカー作品賞にエブエブが選ばれたのは全く文句はないですが、今作も映画の歴史の中で大きな賞が与えられるべきなのでは?と思いましたね。サラ・ポーリーが脚色賞を受賞したのは喜ばしいことですが、まだまだ過小評価されてるなぁという印象です。
あとはそろそろジェシー・バックリーに最優秀俳優賞を挙げてほしい。今作でも素晴らしい演技でしたし、彼女が出演の今後の新作にも期待していきたいですね。
カツマ

カツマ