ウシュアイア

ベイビーステップ 第1シリーズのウシュアイアのレビュー・感想・評価

3.7
真面目で几帳面な高校1年生のエイちゃんこと丸尾栄一郎が運動不足解消をきっかけに硬式テニスを始め、持ち前の几帳面さからコーチの指導や他の選手のプレーをノートに記録をとり、徹底した分析をもとにした努力を重ね、テニスの選手として開眼していく物語。


根性と努力によってライバルを打ち倒していくスポ根ものだが、闇雲で愚直な努力ではなく、分析と機転、戦略に裏付けられた努力であるという点で新しいスポ根物語と言える。

主人公の身体能力は突出しているわけではないのだが、まったく選手としての才能がない、もしくは努力できる才能しかない、というわけではなく、天性の視力(動体視力、深視力)は備わっている。才能も、指導者が見出し、適切な助言と指導を行い、また本人が自分の武器として自覚して、戦略的に活用していくものと位置づけられている。そのため、活動の場が学校の部活動ではなく、専門家の指導者の下、プロを目指す選手が集うテニススクールとなっている。

始めて1年ほどで幼い頃から競技経験のある選手と互角にわたりあえるまでに成長する物語は、若干ご都合主義的なところはあるものの、努力は正しい現状分析と戦略に基づくべきものであり、指導者は精神論に偏らない選手に適切なアドバイスを出せるべき、というメッセージ性が伝わってくる。

話の展開や主人公のスタンスは、「アート系スポ根漫画」と言われる『ブルーピリオド』の矢口八虎に近いものがある。

一方で、ストーリーにエモさはほとんどなく、登場人物はの魅力はイマイチ。

主人公は古き良きNHKアニメの主人公らしくとにかく真面目であまり面白味もなく、いつでも冷静で謙虚だし、周囲や対戦相手の選手へのリスペクトを欠かさない。人間のあり方として模範的だが、竈門炭治郎と同じで共感ポイントが少ない。周囲も基本いい人ばかりだし、登場人物の内面に迫るエピソードも少なく、心理描写も浅い。
(一方で、戦略思考のモノローグが多く、愚直な精神論のアンチテーゼで本作の重要なエッセンスで問題はないと思うが、『鬼滅の刃』や『ブルーピリオド』のモノローグを嫌う人には相性が悪いだろう。)

それに印象に残るセリフも少ない。

ラブロマンスも薄口で、主題ではないことがわかる。

主人公、ヒロインともに眼の縦横比が同じになっている童顔で、真剣な顔つきになったときの主人公は、眉は吊り眉、眼は三白眼と決してカッコいいとは言えない。

最近濫造される玉石混淆の、推しキャラのグッズを売るためのイケメンキャラだらけのワチャワチャ部活アニメよりはスポーツ作品として楽しめる。

リアリズムに基づく新しいスポ根の提起という点で純粋なスポーツ作品として名作ではあるが、ヒューマンドラマの要素がもう少し欲しいところ。
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