ウシュアイア

凪のあすからのウシュアイアのレビュー・感想・評価

凪のあすから(2013年製作のアニメ)
3.7
皮膚の上に「エナ」と呼ばれる皮膜により海中でも生活することができる人々と「エナ」をもたずに陸上で生活する人々がいるファンタジー世界の少年少女たちのラブストーリー。

海の世界の村落・汐鹿生(しおししお)に暮らす中学2年生の4人の少年少女は、汐鹿生の学校が廃校になったことをきっかえに陸の鴛大師(おしおおし)の学校へ通うようになり、異なる世界で生きてきた少年少女たちが出会い交流することで、それぞれが自分の想いに向き合っていくという話。


名作ということでYouTubeの1/21までの期間限定一挙配信で視聴。

脚本は『さよならの朝に約束の花をかざろう』の監督脚本を務めた岡田麿里さんで、本作は誰もが経験するであろう属するコミュニティーの拡大と思春期に伴う心の変化の機微を描いた作品で、『さよ朝』同様に設定は完全に非現実ではあるものの、登場人物の感情や行動に普遍性やリアリティを見出すことができるという点で、秀逸なファンタジー作品と言える。

自分を取り巻く環境や身体が変化すれば気持ちは変わる、というのは当たり前のことなのだが、変化への対処が分からず変化を拒絶してしまう思春期特有の気持ちを思い出させてくれる。そういう思春期特有の気持ちは現役に近ければ当然共感度は上がると思うが、遠ざかってしまうと、ちょっとまどろっこしく感じてしまうかもしれない。とはいえ、子どもから大人になるにつれて行動圏の拡大とともに知らない世界や会ったことのないタイプの人との出会っていくわけだが、そういう戸惑いや変化の拒絶する気持ちというのは、大人もうまく隠しているけれども実は感じることがあるんのではないかと思った。

P.A.WORKS制作のファンタジー世界の美しいアニメーション、花江夏樹、花澤香菜、茅野愛衣、逢坂良太といった実力派の若手時代の演技ともに一見の価値あり。

以上、観ていない人向け。


以下、ネタバレあり。


姉の結婚といった家族環境の変化した光、未知の世界と感情を経験したまなかが変化を受け入れて葛藤するのに対して、大人びた性格ながらも変化を拒むちさきとの対比がとても印象的で、大人はちさきにより共感した人が多いのではないかと思う。光をかばうための嘘なんて、子どもでは考えつかない嘘だと思う。ちさきが最後に見せた自分の気持ちに正直になって変化を受け入れる一歩を踏み出す姿は、見習わなければならない大人は少なくない。

光、まなか、要が眠りにつき、変化を拒んでいたちさきがそのまま5年歳をとり、光や要は想いを寄せられていた小学生女子に肉体・精神年齢が追いつかれてしまうという後半の展開は、ちょっと展開に粗さはあるものの、テーマ上の問題提起としてはよかったと思う。

一方、まなかの「人を愛する心」が奪われてしまう、というのはやりすぎ。こういうヒューマンドラマがテーマのファンタジーは余計な設定や超常現象はご都合主義に陥りやすい。ちょっと思い出を消すだけでもよかったのではないかと思う。そして、最終的にハッピーエンドにはなったものの、「おじょし様」絡みの人柱展開は、「セカイ系」へ逆行してしまっている。「セカイ系」にしなくても十分ラブストーリーの機微は伝わってくる素材はそろっているというのに。
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