ウシュアイア

クズの本懐のウシュアイアのレビュー・感想・評価

クズの本懐(2017年製作のアニメ)
3.9
高校2年生の安楽岡花火は、幼い頃より家族ぐるみでの交流があり「お兄ちゃん」と慕っており、教師となって担任として赴任してきた鐘井鳴海に想いを伝えられず悶々とした日々を過ごす中、鳴海は同僚の皆川茜に想いを寄せていることに気づく。一方、花火と同級生の粟屋麦は以前家庭教師をしてくれた茜を男関係に奔放と知りながら、恋心を抱いていた。花火と麦はお互いの叶わぬ恋心を知り、その淋しさを埋め合わせるためだけに交際を始める。それぞれが周囲を傷つけながらも満たされない感情や欲求と向き合っていく『推しの子』の横槍メンゴ原作のドロドロメロドラマ。

この作品を観てまず「クズ」とはどういう人間だろうか考えてしまった。
日常的にも自分の欲求を満たすために周囲を傷つける人間と考えるとしっくりくる。例えば作中で花火にしても、淋しさを埋め合わせるために麦とお互い了解の上で付き合うものの、一方でそれでも満たされない淋しさを密かに自分に想いを寄せていた女友人の「えっちゃん」で満たそうとし、えっちゃんも花火の淋しさにつけこんで関係を持とうとし、花火もえっちゃんも「クズ」である。他人を傷つけることは確かに悪いことではあるのだと思うが、一方で自分の満たされない欲求がやり場がなければ、だれもがクズになりうるというもの。自分には自制心がある、っていうかもしれないが、片思いの相手の失恋をチャンスを願ったことはないだろうか?思春期から若い時期にかけては強い欲求をもたらす性の目覚めもあり、エゴイスティックになりがちだ。生々しい感情と恋愛のエゴイスティックな側面を思い出させてくれる。

一方、麦が好いてる茜は、自分の優越感と承認欲求のためだけに男と関係をもち、他人を愛することができないどうしようもない「クズ」である。茜は麦を弄び、また鳴海をめぐって花火と三角関係になり、本作のラスボスというかヒールである。一般論として、物語において悪人は罰を受けるか、改心するか、またはその両方かである。そんな茜を麦はなぜ好きになったのかということと茜の顛末は本作の最大の見どころと言っていい。

内容的に映像化はアニメである必然性はない。アニメーションによる性描写とストーリーの生々しさにギャップがそこに気持ち悪さを感じる人もいるかもしれないが、よくぞアニメ化したと言いたい。本作はノイタミナ枠で企画放送されたが、「夏雪ランデブー」にしろ、こういう重めの恋愛ものもたまにはいい。
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