ウシュアイア

葬送のフリーレンのウシュアイアのレビュー・感想・評価

葬送のフリーレン(2023年製作のアニメ)
4.7
勇者ヒンメル、ドワーフの戦士アイゼン、酒飲みの僧侶ハイターとともに10年の旅の末、魔王を倒し、世界を救ったエルフの魔法使いフリーレンは、人間に比べて長命であるがゆえに彼女の人生において些細な存在でしかなかったヒンメルを見送ったことで、仲間と過ごした10年間のかけがいのなさを知り、亡きハイターと老いたアイゼンから託された彼らの養子である魔法使いのフェルンと戦士シュタルクらとともに、魔族の残党を征伐しながら勇者ヒンメルとの旅路の足跡を追うお話。


この作品にはいろいろな解釈があるとは思うが、人間に比べて不老不死に近いエルフの視点を通じて、もし人より長く生きることができたらどのようなことを考え、どのような気持ちになるか、ということを描いた、人間の本性に迫る側面がまず見える。人間なんてどうせすぐ死んじゃう、といって関わろうとしないスタンスは、一つのエルフの処世術の帰結であるし、他のファンタジー作品でもエルフは概してクールなのもそのためだろう。

1000年生きるという現実ではありえないフリーレンの感性は荒唐無稽のように思えるが、ある程度歳を重ねると、人間とエルフの差こそあれど、年長者ほどフリーレンの感性に共感できてしまうのだ。

例えば、評判のレストランを訪れて大量の料理をほおばるフリーレンに対しヒンメルは「一度にそんなに食べなくても、また来ればいいじゃないか」といい、それに対しフリーレンは「そう思って二度と食べられなくなった味がたくさんあるからね…」という。フリーレンのいう経験は人生が長くなればなるほど誰しも経験することだ。『呪術廻戦』で高校生の虎杖悠仁に対し大人の七海健人は「枕元の抜け毛が増えていたり、お気に入りの惣菜パンがコンビニから姿を消したり そういう小さな絶望の積み重ねが人を大人にするのです」とも言っている。

そして、ヒンメルの葬儀の際の 「人間の寿命は短いってわかっていたのに……なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう……」というセリフ。
「おじいちゃん(おばあちゃん)は先に死ぬと分かっていたのに…」
「卒業したら離れ離れになるって分かっていたのに…」
「子どもは大きくなったら家を出て行くと分かっていたのに…」
なんて経験は歳を重ねればどんどん増えていく。大切な時間というのは過ぎ去ってからでしか分からないのだ。

こうしたフリーレンの心情は、日々を惰性で生きてしまっている大人に刺さるところがあるのだ。

個人的には、フリーレンとフェルン・シュタルクの間に位置し、大人のふりをしているハイターやなかなか行動を起こせないザインにも共感できるポイントは多かった。

また、長い年月を経て忘れてはいけないこと(世界を救った勇者への感謝)を忘れないための式典の意義、長い年月は人類の英知により脅威(ゾルトラーク)を克服できること、人々に信仰が必要な理由など、さりげなく人間の普遍的な価値観や考え方が描かれており、本作は秀逸なファンタジーといえよう。

また、アニメ化にあたり映像面では水彩画調の淡い美術とクラシカルな曲調のエヴァンコール音楽が世界観に調和しており、完成度の高い作品となっていた。漫画であるがゆえに説明的になっているセリフも悪い意味で残っているくらい原作に準拠しているが、原作ではテンポを重視するあまり軽く流れてしまったいいセリフも、演出と演技により印象深いものになっている。そして第1話のフリーレンの泣く場面も本作で大きく改変されている数少ないシーンであるものの、効果的な改変で、原作の良さを引き出せていたと思う。

細かいところまで挙げると語りつくせない。
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