真田ピロシキ

PLUTOの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

PLUTO(2023年製作のアニメ)
4.0
原作はリアルタイムで読んでいた。後半はかなり忘れていたが、最序盤のノース2号エピソードを覚えている限りでは再現されていて、そのエモーショナルな演出に完全にやられた。浦沢直樹のややドライな作風では号泣することはないのだが、アニメになると音楽や声優の力も合わさり、しかもロボットの心の発達や死と言った感傷的な題材なので毎回のように涙ボロボロ。一話が大体1時間近くの合計8話あり、これで尺の都合で変に切られたり削られたりしないことを思うと配信アニメの良さを感じる。ドラマ同様そういう時代。

引っかかるのは原作が2003年に始まった漫画で、20年も後に忠実にやると色々違和感を覚える点。『バナナフィッシュ』に感じたのと同じ。それ特に強いのが近未来日本の描き方で、最先端技術で繁栄を謳歌した先進国と描かれていても、技術も文化も政治も人心も留まるところを知らずに下りっぱなしの2023年に生きる日本人にはSFを通り越して異世界の話のように見える。この漫画が終わった頃はまだギリギリ栄えている日本をイメージできたけどさ。震災前で第二次安倍晋三内閣前だし。その頃になってもスーパー日本を描いてた安っぽい『PSYCHO-PASS』のような日本スゴいSFとは違うよ。日本アニメは原作への忠実さが評価されることが多いが、このくらい期間が空いて社会も変わってるなら改変した方が良いと思う。多分浦沢直樹も積極的に協力してくれるだろう。

そしてタイミングが悪いのは2023年の10月に配信され始めた点。「大量破壊兵器はなかった」言うまでもなくイラク戦争の嘘つきアメリカを皮肉ったもの。当時は現在進行形だったイラク戦争を背景にしてて生々しくてアニメ化なんかなかなかできなかったのがあるかもしれないが、最悪なことに今ちょうどイスラエルが欧米の後ろ盾でジェノサイド中。「憎しみは何も生まない」一度はプログラムを打ち破るほどの憎悪を覚えたゲジヒトの遺したメモリーが偏った感情のアトムを蘇らせ地球を救う。素晴らしく希望を感じたい話なのだが、パレスチナには憎しみしか生みようがない。これを見せられるとお花畑wなんて冷笑仕草はするわけないが、クソすぎる現実の前に物語が弱い。話は良いのに弱い。ネタニヤフやバイデンのクズ野郎のせいでボラーと反陽子爆弾に背筋が凍る思いをさせられた。

今、手塚治虫をアニメにするなら『アドルフに告ぐ』をやらなくてはいけない。もっとも「ボクチャン政治イヤイヤ政治の話をしたらダメなんだモン」な作り手も受け手もクソオタクばかりの日本アニメ業界にそれは望みが薄いし、配信プラットフォームも多分イスラエル寄りだろうしな…