なっこ

珈琲いかがでしょうのなっこのネタバレレビュー・内容・結末

珈琲いかがでしょう(2021年製作のドラマ)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

最終話になってようやく、オープニング曲であり、挿入歌でもある「エル・フエゴ」の歌詞に“骨”が出てくることに気が付いた。単なるBGMじゃなくてこの歌のストーリーは、はじめから終わりまでしっかりとこの物語の軸となっていたことにやっと気が付いた。優れた語り手は物語の最初から存在してくれていたことに、なんだか懐の深さを感じて、さらにこのドラマが好きになった。

骨って、人が生きた証なんだ、その人が生きた時間が凝縮される。最期に私たちが骨を見るのは、その人の人生の全てを見ることになるからかもしれない。骨には、木の年輪のように、全ての日々の記録がきっと刻まれているのだ。

愛しているならなぜ姿を消したのだろうか、タコさんに聞いてみたいことは山ほどあるけれど、これは骨になって愛する人のところへ帰っていく男の人の物語であり、主人公はタコさんじゃなくてタコさんの弟子の青山さんだから、あんまりそこは考えない。
これはたぶん男性的なstoryなのだと思う、父と子の物語。父親から息子が骨格を受け継ぐように、骨とは、つまり生き方。何を軸に生きるか、父親から息子に旅立つ前に聞かせて欲しいのはそんなことだと思う。

どんな世界のどんな稼業の親子でも受け継いでいくべき炎があるのだと思う。内側で燃えているのは、まるで骨のようにその身体を動かし続けるのに必要不可欠なもの。それを教えてくれるのは確かに父性の役割かもしれない、そしてそれを問いただしてくれるのも。

青山の生き方は、珈琲に出逢って定まった。ただ美味しい珈琲を淹れたいという思いが、彼を人間らしい彼に引き戻してくれた。
そういう彼を取り巻く人たちが、本当に彼を愛していて、それが美味しい珈琲を更に美味しくしているのだと思う。彼の美味しい珈琲を淹れたい、という単純に見えて深い仕事への探究心を、羨ましく思う。私の“美味しい珈琲を淹れたい”は、何にあたるだろうか。それ程の情熱で仕事に向き合えていないなと、ちょっと反省。

※以下各話感想
#最終話
「暴力珈琲」
「ポップ珈琲」前田旺志郎
(監督 小路紘史)
“小粋にポップに”って素敵な言葉、私も明日からのThemaにしたい。こんな時代だからこそ。

#7
「ぼっちゃん珈琲」宮世琉弥/長野蒼大/鶴見辰吾/内田朝陽
(監督 小路紘史)
本当に時が流れたのかなっていうくらい子役の子と青年役のぼっちゃんが似てる。

#6
「たこ珈琲」光石研
(監督 小路紘史)
「どうしたね?」のトーンが優しくてそれだけで泣きそうになった。そっか、怖いのか。誰にも大切にされたことがないと、甘えられる存在が生まれた瞬間にどう振る舞って良いのか分からなくなるくらいに怖いのか。陽を浴びてじんわり幸せを感じる、釣りでもしながら。そんな風に人生を教えてくれる人に、出会えた彼はとても幸運だったと思う。

#5
「ほるもん珈琲」渡辺大
「初恋珈琲」光石研
(監督 森義隆)
ここまででなぜかぺいが愛しい存在に思えてきてた、そして今回でやっぱり可愛い奴だったと確信する。飴は兄貴にもらったのが最初だったんだね。ずっと食べてたから、あれ食べてるやつに悪い人なんていないはず。

#4
「ガソリン珈琲」野間口徹
「ファッション珈琲」光浦靖子
(監督 森義隆)
毎日の珈琲のように愛されるって幸せなことだと思う。短い間しか一緒にいられなくても。
ハンドルが横に付いてるレトロなデザインのコーヒーミルが素敵。郊外にあんな可愛い外観の珈琲屋さんでコーヒーのワークショップとか素敵。通ってみたいな。まずはお気に入りのエプロンを用意するところから始めたら良いかな。っていう考えが既にフワッとしてて珈琲に失礼だってことね。

#3
「男子珈琲」戸次重幸/小手伸也
「金魚珈琲」滝藤賢一
(監督・脚本 荻上直子)

戸次さんのお話はオリジナルとのこと。ストレートで生きるかブレンドになるか。
めずらしく小手さんが良い役で好感を持てた。ストレートで生きてる人はきっとブレンドで生きてるつもりなんだと思う。周りにこいつはすごいって思わせられる人ほどちゃんと他人を評価できる人な気がする。
ママ・アケミが素敵すぎる。私も通いたいよ、あんなあたたかい雰囲気のスナック。アケミを2回も助けてくれた主人公が本当のヒーロー、私からもありがとう。
滝籐さんの女性らしい仕草にドキドキする。私あんな風にちゃんとしてないなって。綺麗な心を持ってる雰囲気がよく出てて魅力的なキャラクターだった、また登場して欲しいな。

#2
「キラキラ珈琲」山田杏奈
「だめになった珈琲」臼田あさ美
(監督 森義隆)

“アレ”(才能)があるかどうか、で人生が決まるのかな。ピンクちゃんは“アレ”を「根っこ」に言い換えた。私はそっちの見方の方が好きだな。
結局のところ“アレ”があるかどうかだの、誰かと比べてばかりの人生だとポキッと折れた時に落ちるとこまで落ちていく。線を引いてるのは自分だと気がつくまでそれは続く。
ピンクちゃんが東京での一日で少女から大人になっていく、表情の変化がすごい。でもね、あんな風にヒーローがストーカーばりにタイミングよく駆けつけてくれることなんて現実にはないから、そこは主人公の見せ場でもあり漫画的でホッとした。

#1「人情珈琲」夏帆/足立梨花
「死にたがり珈琲」貫地谷しほり
(脚本・監督 荻上直子)

好きな女優さんばかり。そしてみんな共感できる。“特別”になれるほどの何か強いこだわりもないしテキトーにこなせるほど世渡り上手でもないけれど。どっちつかずで柔らかいカフェオレ色の退屈や平穏に殺されそうになる気持ち、分かるな。
大なり小なりみんな働く自分を括弧「」に入れて、人間らしい気持ちに蓋をしてなんとか日々働いているのだと思う。美味しい珈琲はそんな鎧を剥がしてくれる。隙間を見つけて入り込んできてくれる、そんな優しい味がしそう。
何よりじっと話を聴いてくれる、あんな素敵な人がいてくれたら、世の中もっと良くなるはず。思わず本音をこぼしてしまう、愚痴をきいてもらいたくなる、そんな効用もあるのかな、彼の淹れてくれるあの珈琲には。
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