なっこ

恋せぬふたりのなっこのネタバレレビュー・内容・結末

恋せぬふたり(2022年製作のドラマ)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

私が当事者であったなら、きっと高橋一生さん演じる「たかはし」の存在に救われただろうと思う。

いつもこの私は当事者ではない、という語りは一種の逃げ口上のように感じてきたけれど、今度NHKのドラマでペットを飼うヒロインが登場するので、いつか私も見ているドラマの当事者になるのだと知った。そのときどう感じるか、少し楽しみであり向き合う怖さもあるな、と正直感じてる。当事者となったら語れないかもしれないし、逆に当事者でない人も語って良いことはあると思う。

この物語の成功は、「たかはし」というキャラクターを丁寧に構築したことだと思ってる。当事者さえも気付いていない生き方の理想をひとつ提示して見せたこと、またはこんな風に生きていくこともできるのではないか、というあらゆる人に提示したことが、遠い世界に居た人たちをグッと身近に引き寄せてくれた。「たかはし」の目で見て、耳で聞くことで彼の心情を感じ、彼の傷付きに敏感になり、彼が生きたい方向性を一緒に探っていく、そういう穏やかな歩調で彼と一緒に物語を進んでいける時間は、私にとってとても実りの多い時間でした。

北京冬季オリンピック中継等で、2週お休みを挟んで前半と後半に分かれてしまう放映となったことも、結果こうやってじっくり考える機会をもらえたと思う。

物語が後半でどんな結末に着地したとしても、私はきっと「たかはし」の味方でいようと決めた。

このシナリオの良かった点は、ヒロインと千鶴や母親のシーンで、彼女たちが「こう思っている、でもこうも思う」というふたつの考えの間で揺れていたり同時に感じていることをもありのままに表現したことだと思う。人はいつも曖昧な感情の真ん中にいてどっちつかずで、簡単に白黒つけられない。でも、いつも求められるのは結論で過程ではない。結論だけを聞けばとても冷たく響いたりもする。けれど大事なのは、あなたの考えも分かる、でも私は完全に同意出来そうもない、という正直な気持ちなんじゃないのかな。千鶴は今は一緒に居られないと告げ、母は貴女の幸せを願ってると伝えてくれた。その全部を、ヒロインは受け止めた。

揺れている、揺らいでいる、宙ぶらりん、人生はそんな時間も生きていく。曖昧でどっちつかずの感情も抱えたまま生きていかなきゃなんない。結論なんて簡単に出ない、むしろそう簡単に出しちゃいけないものかもしれない。全てを括弧に入れて進むって、そういうことかもしれない。ヒロインの強さはそういうところだと思う。そう思えば、このstoryは、私が一番好きなシンデレラストーリーの典型だ。ヒロインの内面の美しさが主人公を変えていくstory。恋にはならなくても。

※以下各話感想

#8 最終話
アロマアセクだからといってジェンダーロールから自由なわけじゃない

たかはしにとっての家族は、一緒に暮らすものだったんだろう。離れて暮らす家族は多いけれど、血縁でも戸籍でも縛られていないふたりが離れて暮らすことを選択するのは勇気のいることだっただろうし、何よりたかはしは祖母の思い出の詰まった家を出ることに抵抗があったに違いない。でも、家を出るシーン。新たな出発の日を迎えて、これはたかはしが本当の自由を手に入れる自立の物語でもあったのだと分かった。

咲子は、ベストを求める。
たかはしは、諦めを受け入れる。
人生におけるテーマが違うふたりなのに、咲子の熱量が粘りが、たかはしの凝り固まった考えをほぐして新しい考えを受け入れるだけの余裕をつくる。夕飯前のふたりのぶつかりあいがとても良かった。あんな風に逃げずに対話するために言葉を選び機会を伺う咲子の粘りに本当に彼女の成長を感じたし、対話の終わりの温かな雰囲気は咲子色でたかはしを包み込むような感じだった。とても素敵なシーン。

たかはしは、安定的な給料のある仕事を辞めることも家を出ることにも抵抗があった。それはとてもよく分かる。離職=実家を片付けること。そして、それを咲子が代わりに背負うなんてこと想像もしていなかったんだろう。男であるたかはしが世間的なことは全て背負うつもりで家族(仮)を始めたからではないだろうかと私は想像する。ふたりで暮らす中で咲子の考えはもっと柔軟になっていったし、たかはしにとって彼女が頼ってもいい存在になったのだと思う。ようやくたかはしは、祖母の呪縛から離れることができた。愛情と呪いはセットだから、断ち切る人が必要だ。咲子の思いやりがたかはしを自由にした。三月の終わりに相応わしい爽やかなラストシーンだった。

#7 過去と野菜と彼の夢

ようやくわかったきた“たかはし”の過去。これまでは咲子をリードした雰囲気だったのに自分の過去と絡んだことになるとちょっと歯切れが悪い感じ。
祖母から受け継いだ家を守りたい気持ちは大事にしてもらいたい。でもそれを一緒に背負ってくれる人が現れたなら素直に甘えて欲しい。きっとそう単純なことじゃない。けれど、ようやくここでどれだけ成長したのかを見せられる、ヒロインのヒロインらしさを発揮するときが来た気がする。最終回どんな未来をふたりは選ぶのかな、楽しみ。

#6
私はやっぱり“たかはし”の言葉に救われる

“周りに合わせて考えなくても良い”
“「考えない」っていう考えもある”

ほんと、そうだな。人それぞれって言ってしまえばちょっと冷たい。ぬくもりのある言葉で言い換えれば、あなたなりの考えで世界と向き合っていけば良いってことだと思う。大人スゴロクを一つ一つ進んでクリアしていこうとしても、途中で病気になったり理想のパートナーに出会えなかったり、全てのことより家族のケアに時間を割かないといけなくなったり、人生には予想外の想定外の出来事が突然、降ってくるし沸いてもくる。こうしたいって確固たる“考え”を持っていたとしても、それを貫けるかどうかは状況次第。“考え”の良し悪しじゃない。結果どうしてこうなることを考えてこなかっての、なんて責められるように誰かに言われたとしても、せんないこと。それなら、臨機応変に生きるとだけ決めて、こうしなきゃっていう考えを持たないっていうのも一つの処世術だと思う。

今日あったことを、じっくり聞いてくれる人が居る、そういう夜を過ごせるヒロインが羨ましい。
それにしても何でもかんでもガンガン言ってくる妹だなぁ、でも、八つ当たりだって認めてちゃんと素直に謝るところが可愛い。心の内をストレートに表現できる姉妹の関係って良いな。旦那の浮気の件は、その後の過程を見守りつつ、じっくり見定めたい。

#5
一緒にいるのに永遠に失恋し続ける関係、そんなのは辛過ぎる。想いに応えられないことがどれほど残酷かを千鶴が教えてくれた。切ないね。カズくんの頑張りも認めたい、だけど、彼の幸せも考えると受け取れない気持ちだと咲子は判断したのだと思う。
小田原城、良かった。遠出して家の居心地の良さもより分かるよね、帰ってきたときの家の灯り、柔らかくてあたたかくて泣けてきた。私の頭の中では今見てる別のドラマの主題歌(優河「灯火」)が鳴っていた。
きっとね、ふたりが恋愛現役世代であることもこの切ない展開の必然性を生んでいると思う。千鶴が言うような「いつか」は、私は訪れると思うよ、きっと。

#4
いや、だからカズくんそれ全然分かってないから。ってツッコミたくなった。何を分かったんやろう、不安しかない。
恋愛関係に陥ればすごく相手に期待してしまう。その期待値の重さは、親子関係や友人関係よりもずっと重いものだと思ってきた、でもそれは、そもそも恋愛する側の価値観なのかもしない。だから、ここで咲子にちょっと待てと言いたくなる私は、ヒロインをどこまで理解したんだろうか。
最適解を見つけるまでは試行錯誤しつつ進むしかないのかな。

#3
まさかサニサイに再会できるとは。よるドラつながりなのかな。嬉しい。
階段上って門扉、玄関、ってこのアプローチなんか危険な感じしてたんだよね、もう私のたかはしさんに痛い思いさせないでよー、っていう感想しか浮かばない、せっかく良い日になったって月とか撮ってたのに…もうほんとに、なんてこと。波乱の序章。


#2
もう大事な人の前でモヤモヤしたくない

カニを目の前にしたリビングでのシーン。大事な人には分かってもらいたいけど、分かってもらえないかもしれない、本当の意味で分かってもらえないのならあえて言わなくても良いのでは…というカミングアウトの葛藤がよく描かれていた。
あの蟹はヒロインに送られたものなのにね、あの後誰が食べるんだか。

自分がどうありたいか、自分が何者であるか、をヒロインが強く感じた回になっていたと思う。前半のやたら頑張ろうと力む彼女がちょっと痛々しくて見るのが辛かったけど、最後まで見れて良かった。
たかはしと出会って、彼を自分のホームである家に連れていくことで、彼女は自分のこれまでの立ち位置を客観的に理解したのだと思う。一般的な価値観でたかはしをジャッジし当てはめようとする彼らの姿勢が自分の分身である彼を傷つけていくのを目の当たりにして、彼女の中の何かがはじけた、そんな風に見えた。自分の傷付きには感じないようにすれば通り過ぎていくから放っておける、鈍感でいられる。でも、自分にとって大事になっていくかもしれない他者の傷つきは看過できない、そういうヒロインなら好きになれる。彼らは家族ではなく、互いの味方になろうと決心する、そうやって歩み寄っていくきっかけになったのなら、蟹を諦めただけの価値はある。意味のある実家訪問だった。自分がどこに帰るべきか、ヒロインはちゃんと分かってた。
妹の夫、LGBTQのことを教える立場ならアロマアセクのことも知っているはずだけどな。性教育はそこまで含めて教えてあげて欲しい。

#1
恋愛しない=ひとりで生きていく
結婚しない=家族を持たない
子どもをつくらない=老後が心配
人生はそんな単純なものなのか

私もどちらかと言えば恋愛至上主義。恋愛ドラマにワクワクしてしまう。ヒロインが誰を選ぶのかに一喜一憂してしまう。
でも、恋愛っていつも楽しい嬉しいじゃない、辛い苦しいだってある。それは家族も一緒。家族である故に辛いこと悲しいこともある、幸せなことばかりじゃない。誰もが分かりやすい幸せの形に安心したいだけ、その軌道に乗せておけば子どもの未来は安泰だと信じている親だっているだろう。でも本当にそうなのかな。
そして、このドラマの中でもうひとつ気になるのは、モテ/非モテの問題だと思う。彼らがアセクシャルであっても彼らに性的に惹かれる人たちはいる、彼らに性的に応えて欲しいと願う人だっている、そういう人たちとどう付き合っていくのか、がもう一つ見えていない問題だと思う。画面に映る彼らはとても魅力的だから。ついつい魅力的な男女ふたりの恋愛物語を期待してしまう私は、やっぱり恋愛脳だな。

運命の相手ねぇ。
そう、あともう一つ。私はこのなんでもペアで考えることにもちょっと疑問を持ってる。ひとりは寂しい、ふたりが良い、も分かる。でも、ペアだけが人間関係じゃないと思う。トリオでもグループでも良いんじゃないのかなと。恋愛がしんどくなるのは一対一の関係性が苦手ってこともあり得るんじゃないかな、と思い始めてる。でもそれを突き進めると浮気や不倫を肯定するような発言に聞こえてしまうだろうから、ちょっと用心しなきゃなんだけど。
ヒロインも私と家族になりませんか、と言った。たかはしを運命の相手だと思ったのだろう。ここからどう展開していくのか。アロマアセクの先輩である彼がどう彼女を導いていくのか、それも気になるところ。
続きが楽しみ。
なっこ

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