都部

仮面ライダーBLACK SUNの都部のレビュー・感想・評価

仮面ライダーBLACK SUN(2022年製作のドラマ)
3.3
結論から述べると滅茶苦茶面白かったが、まず間違いなく傑作ではない奇妙な怪作。笑える。

ポリティカルな事柄を雑多に詰め合わせた語り口と昭和特撮の癖が激しく混合するカオスな作風にはしかし熱量が感じられ、だからこそ脚本演出の粗が黒冗句的な無二の魅力を産み出している。

右翼/左翼、差別被差別、与党/野党、腐敗政権に事実上の人身売買、流通する薬物と横行する人体実験、そして学生運動。

これだけのセンシティブな要素を取り扱いながらも、あくまでそれら大半は作品の舞台装置として冷笑的に使い倒す割り切り方には思わず
『バカ!!!!』と笑ってしまうし、この欲張り感は企画一発目としての手つきとして嫌いじゃない。

人は等しく愚かで正義は何処にもない、作品の念頭にあるのはそんな遣る瀬無さであり、演出部分に作り手の思想が漏れることはあったものの物語の大部分は全方位を雑に殴り倒している。
なので本作はパルプのフィクションな訳なのだが、作中で描写される怪人差別被差別の描写は完全にBLMのそれだし、登場する政治家のモデルは現実の人物に寄せたデザインだしと、綺麗に現実と虚構の垣根を切り離させてくれない厄介さが存在している。
故に本作を鑑賞&語る上で、作中のガバガバな政治と差別の描写からは決して逃れられず、この作品にこっちが乱暴に振り回される感覚自体は結構好きなので自分のツボに見事ハマってしまった感覚はある。
役者陣の演技は軒並み良質で、分かりやすく邦画特撮の規模としてはお金を投じた撮影ルックなので、この作品の変で、怪しく、胡乱な部分が、気を抜いて見てるとまともな物に見えてしまうというのは完全に罠。

主演を務める西島俊之の胸の内の空虚さを拭えない哀愁が入り交じる光太郎象も魅力的だったが、学生運動に熱を浮かされて青春に取り憑かれた虚しい大人としての信彦を演じる中村倫也の演技が目を引くそれで非常に良かった。脇の役を固める演者陣の演技にもたしかな味があり、名前を羅列すると三浦貴大、濱田岳、今野浩喜、ルー大柴、この辺りはキャスティングの妙を感じる出来。

同時に脚本や登場人物の感情線の粗を、役者の演技に依存して勢いで何とかしているという問題点が浮き彫りになっているのが少々気になる。

R相当のグロ描写に関しては一話の脊髄引き抜きが正直ピークかな。
以降もそうした描写は点在していたが、印象的なシークエンスはそこまでなかった。
政治的な事柄の取り扱い方は『これはフィクションだから、全てに於いて真に受け過ぎるのはよくないよ』という意味でR18相当は納得。

殺陣はその多くが微妙。
昆虫の因子を得た改造人間であると納得させるような細かな素振りが全然なくて、グロ描写を孕んだ よくあるアクションに収まってるのが不満だった。10話の死闘を思わせる切り結びももっともっと泥臭くて良かったように思う。

総評として目に見えた粗は存在するが、一方で良い所も存在しているので実験作としてはかなり好き。ゲラゲラ笑えるし、かと思えば肝が冷えたりもするので、ジャンクフードとしてめちゃ旨。
観客同様に作り手も作品に振り回されてるのが分かるので、これを機にこのノウハウを活かして色々作って欲しいものである。
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